「関係人口」の先駆けとなる1冊
『ぼくらは地方で幸せを見つける』は、月刊誌『ソトコト』の編集長である指出一正さんの著書です。
また、今流行の「関係人口」が産声を上げた本であるともいえます。
「関係人口」は私の研究テーマであり、本書は『関係人口をつくる』と『都市と地方をかきまぜる』と並んで、私的関係人口3大バイブルの1冊に位置づけさせていただいています。
(蛇足ではありますが、『ソトコト』も愛読していたので、あるセミナーで指出さんにお会いした時に、勢い余って(?)「ときがわ町に関係案内所をつくりたいんです!」というお話をしたことがあります。
そうしたら、「いいですねー。ぜひやってください。できたら呼んでくださいよー」と笑顔でエールを送ってくださいました。
そのときから、人としての指出さんのファンにもなりました笑)
ということで、今回は本書を題材にして、関係人口と地方の関係について学んでいきます。
本書で注目するポイントは次の3つです。
①地方に惹きつけられる若者
②ローカルヒーロー
③地域の未来をみんなつくる
ぜひ、自分だったらどういう視点で地域を選ぶか、若者を地域に呼ぶにはどうしたらいいか、を考えながら読んでいただけたらと思います。
ではさっそく順に見ていきましょう!
地方に惹きつけられる若者
指出さんは、地方に惹きつけられる人、とりわけ20代から30代の若者には、ある特有の共通する価値観があることを指摘しています。
それは、「ソーシャル」という価値観です。
ソーシャルというのは社会的、社交的というような意味ですが、ここでは、「社会や地域、環境をよりよくしていこうという行動やしくみ」を表す言葉として使われています。
持続可能な経済活動によって、社会課題の解決を目指す事業のことを「ソーシャルビジネス」というのが分かりやすい事例かもしれません。
今の20代から30代半ばの世代は、ひとつ前の世代に比べて、小さなコミュニティの属性や多様な嗜好性、仲間との共感性などの価値を置いて、行動することが格段に多いのだそうです。
そのソーシャルな世代が、今、地方での暮らしに関心を向け、行動しはじめているということですね。
一方、この世代以下の世代は、インターネットが社会のインフラとして定着し、スマホを自在に操るデジタルネイティブの世代でもあります。
彼らの周りには、ありとあらゆるものの情報が、いつでもどこでも手に入れることができるといっても過言ではないほどにあふれています。
そんな社会に暮らす若者にとっては、一方的に与えられる地域の魅力の情報は実はあまり価値がないのだといいます。(ここ重要です!)
彼らが欲しいのは、「関わりしろ」です。
つまり、その地域に自分事として参加できるか、ひとりの人間として必要とされているかということなのです。
指出さんは、本書で次のように述べています。
彼らの心の芯にあるものは、「応援したい。支え手になりたい」という気持ちで、自分が関わることで、少しでもよい方向に向かうことに喜びや手応えを感じている
いまの若者たちは自分を探しているのではなく、自分が手応えや実感を得ながら暮らせる「居場所」を探している。そしてその居場所は、カフェやコミュニティスペースではなく「地域」である
ここに、地域に惹きつけられている今の若者の姿を見てとることができますね。
ローカルヒーロー
では、次に、実際にどんな若者が地域で活躍しているのか、そこでどんなことを考えているのかということを取り上げてみます。
本書には、指出さんが「ローカルヒーロー」と呼ぶ地方で活躍する若者たちの事例が豊富に取り上げられています。
地域で暮らしたり、仕事をしたいと思っている方にとっては、刺激にもなりますし、地方で生きる上でのロールモデルにもすることができます!(もちろん私にとっても!)
いずれも個性豊かな方々が登場しますが、そのうち何人かを取り上げ、彼らを紹介する指出さんの言葉から象徴的なものを抜き出してみます。
パーリー建築(新潟県十日町市 ほか)
・「生きる」をどう面白くしていくかを、自分たちだけで完結させずに、同じ価値観を共有できる仲間たちと一緒につくろうとしている
ペンターン女子(宮城県気仙沼市)
・都会よりも地方に魅力を感じるのは、「関わりしろ」や「チャレンジしろ」が都会よりもずっとあるから
・地方は、東京のように生活のシステムに隙のないところは少なく、何を行うにしても自分が関わらざるをえない状況のほうが多い
・「生きることへの出番」がしっかりある
・どの地域より「人がいる」といえるか。人口という数ではなく、どんな人がいるかのほうが重要
『四国食べる通信』編集長 ポン真鍋さん(香川県小豆島、高松市)
・地方やソーシャルの分野は夢や希望に溢れている。自分が関わって起きることがダイレクトに感じられ、大切な役割を果たしているという存在感を自己認識しやすいから
・3年後、5年後という近い未来をつくる行為を仲間やコミュニティで共有できる高揚感
・「仲間経済」=縁でつながる経済のしくみ。買い手は自分の信頼する生産者や、信頼する仲間がすすめるモノを買う。つくり手は信頼できるお客をほかの信頼できるつくり手に紹介する
・小さな経済のしくみが各地にできれば、規模で利益を獲得する資本主義経済とは異なるローカル経済が成り立つ
巡の環(島根県海士町)
・地域の人を巻き込むのにいちばん大事なことは、「儲かるかどうか」と「面白いかどうか」
・地域で生きるとは、自分たちがやりたいことの実現を目指すのではない。地元の人たちと同じ目線に立ち、お互いにとって幸せな未来とはどのようなものかをともに探索していくことが大事
秋田和良さん(広島県安芸太田町)
・「なんでもやります」という姿勢は、じつはローカルで暮らすうえで必要なスタンス。地域のなかでは「自分はこういうことが得意なので、こういう仕事がしたい」といったところで、その仕事の需要がなければ成立しない
桃色ウサヒ 佐藤恒平さん(山形県朝日町)
・自発性、当事者意識がまちづくりには大切で、ひとりでも多くの人が自分のまちのことを考え、動くようになると、その地域は活気づく
地域の未来をみんなでつくる
最後は、「地域の未来をみんなでつくる」です。
この見出しは、あえて本書の第5章のタイトルをそのまま使わせていただきました。
私の解釈では、「みんな」には、2種類の人が含まれていると思います。
本書のテーマでもある関係人口と地域で暮らしている人です。
キーワードは「関係人口」
まずは関係人口からいきましょう。
指出さんは、これからの地域づくりのキーワードとして「関係人口」を挙げています。(やっと出ました!)
関係人口とは、「そこに住んではいないけれど、その地域を何度も訪れたり応援してくれたりして、地域と多様な関わりを持つ仲間」のことです。
(関係人口については、『関係人口をつくる』から学ぶでより詳細に考察していますので、よろしければこちらも合わせてご覧ください)
先ほどの「ローカルヒーロー」で見てきたとおり、現在、20代から30代半ばの若者が地域に惹きつけられ、関係人口がまちを元気にする大事なプレーヤーになっています。
そこで人口の減少に悩む地域では、ハードルの高い移住者ではなく、関係人口をなんとかして増やそうと躍起になっています。
では、どうしたら関係人口を増やすことができるでしょうか?
指出さんは、「関係案内所」をつくることを提唱しています。
関係案内所というのは、指出さんの造語で、地域や地域の人との関係づくりを案内する場所のことです。
先に述べたように、今の若い世代が求めているのは、自分の居場所であり、「関わりしろ」です。
つまりは、自分を地域や地域の人と関わらせてくれる機会や役割、それによる「生きている」という実感を求めています。
もっと端的にいえば、仲間や居場所と思えるコミュニティを探しているといっていいのではないかと思います。
そんな仲間や居場所となるコミュニティとの関係づくりをサポートするのが関係案内所です。
関係案内所は、観光案内所のようなハードとしての施設である必要は必ずしもありません。
もちろん施設があれば一目瞭然でわかりやすいですが、ソフトなコミュニティ、機会またはつながりをつくってくれるような人そのものも、広い意味で関係案内所と知っていいのではないかと個人的には考えています。
前提にあるのは地域の人の熱量
これまで関係人口が重要であるということを見てきました。
でも、関係人口をつくる上で、忘れてはならないことがあります。
それは、関係人口を受け入れる側の地域に、魅力的な人がいるか、魅力的なコミュニティがあるかということです。
つまりは、関係人口うんぬんの前に、地域の人が楽しそうに暮らしているか、働いているかということなのです。
考えてみれば当たり前のことで、地域の人が楽しそうでないのに、そこに行ってみたいと思う人はいないでしょう。
逆に、地域の人が楽しそうにいろんなことをやっていて、それにいろんな人が関わったり、SNSで発信されるのを見ていたら、「おもしろそう」とか「いってみたい」と思いませんか。
指出さんも次のように述べています。
魅力ある地域をつくるうえで、大事な要素が「コミュニティ」・・・
隣近所の互助精神のような昔ながらの「つながり」の価値に加えて、いまのコミュニティには「そこに行ったら、何か面白いことが待っている」という楽しさがある
一言でいえば、おもしろい人がいるおもしろい地域には、人が集まるということ。
そしてそれは伝播します。
関係人口が1人来たらそれで終わりではなく、その人を通じて二次関係人口や三次関係人口のようなものができていく可能性もあります。
ましてや今はSNSの最盛期。
誰もが情報発信者となっている時代です。
関係人口一人ひとりがメディアとして、地域のことを発信し続けたら、きっとすごい力となるはずです。
それは地域の側から発信された押し付けのPRではなく、地域で生きる若者の「生の声」だからです。
これ以上に強力な口コミはないといっていいでしょう。
地域に惹きつけられる若者を、地域で暮らす人たちが寛容をもって受け入れ、仲間としてコミュニティをつくり、安心してチャレンジできる場所をつくり出せたら、きっと、地域がもっとおもしろく、もっと個性的で、もっと多様性にあふれた場所になっていくと思うのです。