「日本一おかしな公務員」は「理想の公務員像」
本書を手に取ると、モヒカン頭にTシャツ、ピンクのストライプのズボンという表紙の姿がまず目に留まる。
白シャツに腕抜きという、ありがちな「いわゆる公務員像」を逆張りしたかのようですね笑
そう、本書の著者は、正真正銘の現役公務員。
長野県塩尻市の山田崇さん。
公務員で、名前が「崇」ということで、勝手に親近感を抱いています。(私は「元」公務員だけど)
公務員の方が書いた本だからということもありますが、公務員の方にこそ読んでもらいたい本です。
というより、公務員だからこそ学びがある本だと思います。
たとえば、私が気になった一節に、次のようなものがあります。
「地元で飲むと住民から文句いわれるんで、隣町で飲もう」なんてことが起きているのが、地方公務員の世界
そんな中で、山田さんは、「少なくともお前は、ちゃんと地域に出ていっている」と上司に認められたといいます。
そして、山田さんが活動を続けるうち、「変わった地方公務員」「フツーじゃない地方公務員」と呼ばれるようになります。
ここで私が抱いた疑問は、「公務員が地域に出ていくのは『フツー』では?」ということ。
だって、地域の人のための仕事をしているのが公務員(自治体職員)なんだから。
それが「地元で飲むと住民から文句いわれるんで、隣町で飲もう」の方がフツーになっているんだとしたら、そっちの方が問題ありだと思うのです。
公務員が地元から逃げているのだとしたら、地元の住民との信頼関係性が築けていないということにほかならないからです。
そもそも「地域に出ていく」ではなく、「地域に入る」が正しいのでは?
また、こんな一節もありました。
その会議に集まった40人のなかで、私と上司だけが給料をもらいながらやっていた。ほかの方たちは全員、本業を脇において、無償で参加してくれていたのです。
これにはハッとさせられました。
確かに「市民協働」を名目にした行政主催のワークショップやまちづくりの会議などは、夜間に行なわれるものも少なくありません。
当然、職務上の会議であれば残業手当が支払われます。
でも、行政職員以外の参加者は無償、いわばボランティアです。
それなのに、将来のまちのために集まって、危機感をもって議論してくれる人がいる。
一方で、行政職員は、仕事で来ているはずなのに、いやむしろ仕事で来ているからなのか、どこか他人事です。
「皆さんが決めること」といいつつ、決まったことに対しては「庁内の方で揉んで反映できるか検討します」と返す始末。
ときにはその場にいるのに、本当にただ「いるだけ」という職員の姿も見られます。
なんか違うんじゃないの、と思います。
本当に「協働」というのであれば、行政と民間、住民が、対等な立場で地域の未来をどうしたいのかを議論することが必要ではないかと思います。
それなのに、一方的に議論を民間に委ねたり、「行政だから」と変に一歩下がって構えているのは単なる怠慢ではないかと思います。
一方、山田さんのスタイルは、公務員の立場に閉じこもることなく、公務員であることのメリットを最大限に活かして、地域に入っていったり、ときには地域の外に積極的に出ていって、外の知見や人を地域に呼び込むというもの。
だから「日本一おかしな公務員」は、むしろ私の「理想の公務員像」ですね!
次に、本書から得た学びをまとめてみましょう!
行政におけるPDCA
・行政においては、きちんとPを作ろうとするあまり、そこで足が止まってしまう
・重要なのは、小さなdoをとにかく起こすこと
・どんなことでも、やってみれば見えてくるものがある。何かしらの発見がある。それが次のdoにつながっていく
・失敗は失敗で終わりではなく、次への改善のヒント
公務員の伸びしろ
・公務員には大きな与信があり、大きなチャレンジの可能性がある
・「与信」のある公務員こそ、チャレンジしやすい
・「スーパー公務員」といわれる公務員は、「与信」を最大限に活用している人たち
・埼玉県横瀬町の富田町長が、「公務員の仕事の熱量からお役所仕事を取り除くと、大きな伸びしろが眠っている」と話していた
・「スーパー公務員」は伸びしろの実例
スーパー公務員
・こういう人たちが出てくるのは望ましいが、一方で「あいつは特別だから」と壁をつくって諦めている人がいないか
・「スーパー公務員」は特別なことはしていない。地域内外にガンガン出ていって、行動しつづけ、成功も失敗も積み上げて結果を生み出している
・公務員にとって本来フツーでなければならないこと
・これを「特別」と思うのは、むしろ組織内部の「お役所仕事」しかしていないダメ公務員という証拠
まちには実験室が必要
・実験室=いろんな人がいろんなアイデアをどんどん試せる場
・迷惑をかけなければ何でもやってOK、失敗もOK
・若い人も年配の人も、成功と失敗を積み重ねていける学びの場
・人が自然と集まって、人が集まると何かが動き出す場
・公務員も民間もない、対等でフラットでチャレンジングな場
本書をpicks!
最後にまとめて、本書で気になった個所をpick!
ナンパで身に付けたマインドセット
・成功するまでやめないと決めた時点で、失敗は存在しなくなる
・全員と知り合いになりたいなら、目の前のひとりと真剣に向き合うことの積み重ねでしか実現できない
・「絶対に成功させなきゃ」と意気込むのではなく、「女性に断る権利をあたえる」「やるべき仕事は終わった。はい、次」という型で動けば、心は折れず、いくらでも声をかけられる
→ ベンチャー企業との共通点
・事前に計画が立てられないベンチャーの世界では、小さな試行錯誤を山ほど繰り返す。結果を見て、ダメそうだったら棄てて、イケそうだったらさらに力を入れる。それを高速回転することで、可能性を可視化していく(=MVP(ミニマム・バイアブル・プロダクト))
寛容性が新しい価値を生む
・アーティストは「3つのTを大切にする場所」を好む
→ テクノロジー、タレント(才能)、トレランス(寛容)
・特に寛容性が一番重要
→ 寛容性が新しい価値を生み出す
公務員として働くこと
・知らない若者が空き家に押しかけて話を聞いてくれたのは、市役所の職員だったから
→ 公務員としての与信
・「地元で飲むと住民から文句いわれるんで、隣町で飲もう」なんてことが起きているのが、地方公務員の世界
・技術的問題は民間企業でも取り組める。どこに問題があるのかもわからず、解決方法も見えない適応課題には、クビにならない公務員が取り組むしかない
・「ドゥー・ザ・ライト・シング・ナウ!」
→ 自分が正しいと思うのであれば、いますぐやれ。それが自分の支持者を増やし、ひいては社会を変えていく。動き出す前に「失敗したらどうしよう」なんて悩んでいる場合じゃない
小さな町では動き続けることと関わりしろが重要
・地縁・血縁はしがらみである一方、地域で活動する上ではこれ以上ない武器になる
・アクションを起こしたとき、小さな町だと埋もれることがない
・「みんな来て!」では誰も来ない。ひとりずつしかナンパできない
・誰かが勇気をもって動き出すと、かならず応援する人が出てくる
・3人目までを決めておくと、「4人目」がまったく想像できなかったようなところから現れる
→ 計画しすぎず、偶発性に頼る
人を育て、課題も解決するMISHIKARA(ミチカラ)の取り組み
・「お金を払ってでも行きたい」と民間企業が思うような場所になればいい
→ 地方の課題解決をすることが、そのまま企業の人材育成になる「MICHIKARA」
・民間と組む方が効率のいいテーマ設定
・「なんで?」「ホントに?」「具体的には?」「いつまでに?」を徹底して考え、課題の本質を明確化する
→ 明確な目標設定が可能となる
→ 当事者意識が生まれる
⇒ 埼玉県横瀬町の「よこらぼ」では、地域の側から課題を提示するのではなく、解決する課題の提案も民間企業から受けている
・民間企業はお金儲けだけを考えているわけじゃない。お金儲けをしつつ、世の中をよくしていくことを考えている。だから「利益を出さなきゃいけない」という制約が外されたとき、ものすごく自由を感じる
・公務員にしかできない仕事がある(適応課題)
→ 「初めて公務員がうらやましいと思った」
⇒ 「利益を出さないこと」にお金を使えるのが公務員
⇒ 公務員の「世の中をよくする」という視点と、民間企業の「お金を儲ける」の視点の価値観の融合と交換
地方創生のために地域で必要なこと
・未来を生きるのは、現在の若者。未来を決めるのも、彼らであるべき
・高齢者の方が選挙に行くから、政治家も高齢者向けの政策を打つ
・地方創生のカギは、「地域で挑戦しようとする若者を応援する大人」をひとりでも増やすこと
⇒ 地方自治体と住民の話し合いの場に出てくるのは高齢者ばかり
⇒ 従来のやり方は若者にとって魅力がない。いかに若者が参加したいと思える場をつくれるかが重要
・ファーストペンギンになるときは、ロストペンギンにならないこと。絶対に群れから離れないこと
→ 群れから離れると、成功も失敗も共有できない