雑草に学ぶ「戦略」とは?

『雑草という戦略』というタイトルもすごいと思ったが、中身を読んでみてもっと驚いた。
タイトルどおり、「雑草」について書かれていたからだ!笑

確かに、考えてみると、VUCAの時代と呼ばれる現在において、これ以上の戦略はないのではないかと思えるほど的を射ているような気がしてくる。

VUCAの時代とは、「Volatility(変動性)」、「Uncertaionty(不確実性)」、「Complexity(複雑性)、「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字を取った造語で、つまり変化が激しく、予測不能な時代ということだ。

雑草とは、実は「競争に弱い」植物であると本書には書かれており、意外な気がした。
コンクリートのわずかな隙間からでもニョキニョキ生えてくるし、梅雨で雨が続いてもおかまいなしに伸び続け、繁殖力も旺盛で知らないうちに庭がとんでもない状態になっている・・・というイメージがあったからだ(実話です・・・笑)

本書によれば、雑草は、他の植物が生きることのできない過酷で変化が激しい環境だからこそ生き延びてきた植物である。
その植物だけが生存できる環境で生き抜くことで、その環境におけるニッチ、つまりナンバーワンを獲得した植物なのである。

・安定した条件で勝利するのは競争に強い者である。強者が力を出すことができない逆境にこそ、弱者が勝利するチャンスがある

この一文には非常に感銘を受けた。
弱者にとって、変化はピンチではなくチャンスなのである。

狭い市場でナンバーワンを目指すという考え方は、まさしく比企起業塾で私が学んだ「ランチェスター戦略」の考え方そのものだ。
そのほか雑草の生存戦略としての、「逆境」「変化」「多様性」は、ミニ起業家だからこそ学ぶべきところが多い。

雑草から学ぶ「自殖」と「他殖」

さて、本書からの詳細な学びは「まとメモ」で紹介するとして、私が本書で最も印象に残ったのは、植物がとる「自殖」と「他殖」という2つの受粉方法に関する件である。

植物の受粉方法には、ハチなどの昆虫を介して受粉を行う「他殖」と、自分の花粉を自分の雌しべにつけて受粉を自己完結する「自殖」の2つのやり方がある。

自殖の最大のメリットは、誰の助けを受けなくても種子を作ることができることだ。
周りに仲間がいなかったり、昆虫の助けを借りなくても自分だけで受粉できるので非常に効率がいい。

効率の良さという点においては、他殖は自殖に圧倒的に劣るのである。
それなのに、多くの植物が他殖をするのはなぜかということだ。

それは「多様性」を生み出すためである。

自分だけで作った種子は、それぞれ異なった性質を出そうと思っても限界がある。他の植物と花粉を交換し、自分にはない遺伝子を入れることによって、さまざまな性質の種子を作ることができる。

なぜ私がこの件に最も興味をひかれたかというと、この一文が理由であった。

「自殖」と「他殖」の違いは、まさに仕事に関しても同じことがいえるのではないかと直感的に連想したからだ。

自分だけで仕事をつくるのは、早いし、効率的だ。
でもそれを続けているうちに、やがてマンネリ化し、退屈してしまう。

一方、仲間と一緒にやる仕事はどうか。
時には意見の食い違いなどもあってイライラすることもあるかもしれないが、自分にない考え方に触れたときのワクワク感や躍動感、うまくいったときの一体感、達成感は何にも代えがたい。

本書にもあるとおり、自殖と他殖のどちらがいいということではない。
両方のやり方を持っていることで、自立性と多様性が両立できるということである。

私はどちらかといえばなんでも自分でやろうとする方なので、雑草からは「他殖」を学ぶべきだろうなあ。

最後に、自らへの戒めとして心に留めている格言を一つ。

「早くいきたいなら一人で行け、遠くへいきたいならみんなで行け」

本書のまとメモ

・雑草が得意としている特殊な環境は「予測不能な激しい変化が起こる場所」である。
 もし、私たちが生きている現代が、予測不能な変化の時代なのだとしたら・・・雑草の戦略が役に立たないはずがない。

生物にとって「強さ」とは何か

・コア・コンピタンスとは、「他者を圧倒的に上回る際立った能力」や「他者に真似できないような核となる能力」

・「ニッチ」とはもともと生物学の用語で、「生態的地位」と訳される
 →「ナンバー1になれるオンリー1の場所」
 → 生物の世界では「ナンバー1しか、生き残れない」という明確な鉄則がある

・ある生物がナンバー1になる方法はたくさんある。しかし、その生物がナンバー1になれる場所は、その生物だけのものである。このナンバー1になれる場所がニッチである

・ナンバー1になるニッチを獲得するために大切なことは、「自分の得意なところで勝負をする」こと

・ランチェスター戦略では、ナンバー2はすでに弱者である

ルデラルという戦略

・雑草は競争に「弱い植物」である

雑草の成功法則「逆境」

・雑草の成功法則=「逆境」×「変化」×「多様性」

・安定した条件で勝利するのは競争に強い者である。強者が力を出すことができない逆境にこそ、弱者が勝利するチャンスがある

雑草の成功法則「変化」

・変化に対する相反する2つの考え方
「変化に惑わされず、一つのことに専念して継続することが大事」
「同じことを続けていてはいけない」

 → 雑草は、大きさも自由自在、伸び方も自由自在。臨機応変に環境に対応して、変化する

・雑草にとって大切なことは、種子を残すこと。どんな状況に置かれても、雑草はそれを変化させることはない。大切な軸はぶれることがない。困難な状況であればあるほど、雑草はその軸をぶれさせない

・たどり着くゴールが決まっているのであれば、そこに至る道はどこを通ってもいい。だから雑草は変化をすることができる

・安定した環境では競争力が物を言うが、不安定な環境では競争などしている余裕はない。攪乱のある場所で求められることは、競争の強さではなく、次々に変化する環境に対応する適応力である

 → 安定した環境よりも、攪乱の起こる不安定な環境の方が、多くのチャンスがある。この攪乱のチャンスを物にしているのが雑草なのである

・弱者にとっては、攪乱はチャンスでしかない。変化を恐れることはないはずなのだ

雑草の成功法則「多様性」

・攪乱に生きる雑草の基本戦略は「たくさんの小さな種子」である

・数多くのチャンスを見つけては、小さなチャレンジを繰り返す。そして数多くの失敗の中に成功を見つける。それが、予測不能な変化を生きる雑草の戦略なのである

・種子の性質がバラバラであるという「多様性」が雑草の武器なのだ

 → 雑草は自分の特性を次の世代に押し付けるのではなく、できるだけさまざまなタイプの子孫を残そうとする

・「他殖」と「自殖」のメリットとデメリット
 自殖は誰の助けを受けなくても種子を作ることができるので効率的な反面、多様性がないため生存に不利な形質が現れる。
 他殖はコストがかかり、リスクを負うが、世代を超えて生き抜いていくための多様性を生む。

 → どちらか一方を選ぶのではなく、他殖も自殖もどちらもできる方がいい

 ⇒ 学びやビジネスにおいても、自分で完結する方がコストがかからない。
   でも、VUCAの時代を生き抜くためには、他者との共創による多様性やネットワークが欠かせない

・変化する環境に生きる雑草にとって、重要なキーワードは多様性である

・農作物は人間が作り出したエリートの植物である。そこに求められるのは、多様性ではない。均一性である

 → それは人間の限られた基準で選ばれたに過ぎない。人間の保護下であればいいかもしれないが、そんな限られた優秀さで生き抜けるほど、自然界は甘くはない

・雑草は、自らのコピーを増やす戦略よりも、多様性のある異能集団を維持することに努力を払ってきた。正解のない時代、予測不能な変化の時代に何が必要か。雑草の進化はそれを物語っているのかもしれない

 ⇒ 高度経済成長期の画一的な価値観のもとでは、「学力に秀でた優秀な人材」であるエリートを生むための教育が有効だった。
 でも、終身雇用制が崩壊し、人生100年時代を迎えて会社よりも個人が長寿命化するVUCAの時代においては、社会からの「保護」は期待できなくなりつつある。
 とすれば、自分で課題を発見したり、変化に柔軟に対応できるようなレジリエンス教育や起業家教育が今後重要になる

雑草の成功法則とは何か

・雑草の戦略
 ①弱さを見つめ、強みに集中する
 ②シンプルにすることで新たな価値を生み出す
 ③できるだけ戦わない。変化によって生み出される新しい環境を捉える
 ④戦う場所はしぼり込む。オプションはしぼり込まない
 ⑤安易な価値づけをせず、多様であることに価値を置く

雑草の特徴的な戦略

・微生物はジェネラリストから、環境に適応してスペシャリストに変化していくものが多い。しかし、環境に適応したスペシャリストは、その環境に特化するあまり袋小路に入ってしまうリスクがある。また、その環境が変化すればスペシャリストとしての優位性も失われてしまう。
 微生物の世界では、ジェネラリストこそが変化を乗り越える力である。そして、新たなスペシャリストを生み出す原動力となっている。

 → まったく新しい進化を生み出すためには、ジェネラリストが必要であると考えられている

雑草と日本人

・日本には「雑草魂」という言葉がある。雑草は人間にとって邪魔者であり、敵である。しかし、そんな雑草の中に強さを見出しているのである

・温室育ちの植物は、とても恵まれた環境で大切に育てられたエリートの植物である。しかし、日本人はエリートであるよりも、雑草であることを好む

・日本は、変化を好む国である。不安定さに価値を見出す国である

・逆境の時代なのだとすれば。それこそが私たちの強さである。
 変化の時代なのだとすれば、それこそが私たちの強さである。

 ⇒ 古来、日本人が抱いていた「雑草」に対する価値観が、いつの間にか忘れ去られ、画一的な成長主義のシステムに絡めとられて、画一的な人間を生み出す教育を作り上げてきた。

 ⇒ 今のVUCAの時代にあって、そうした価値観を再び見直すべきタイミングがきている