農林水産省主催「農村プロデューサー養成講座」第1回を受講しました
農林水産省では現在、「農村プロデューサー」を要請するための講座を実施しています。
農林水産省によれば、農村プロデューサーとは、「地域への愛着と共感を持ち、地域住民の思いを汲み取りながら、地域の将来像やそこで暮らす人々の希望の実現に向けてサポートする人材」のことです。
コースは、「入門コース」と「実践コース」の大きく2つで、「入門コース」は誰でもオンラインで受講することができます。
「実践コース」は、「講義」「実践を基にした模擬演習」「研修生自らの実践活動」という3段階で、こちらは受講申し込みをした上で選考があるそうです。
農村プロデューサーに関する詳細はこちら(農林水産省のページにリンクしています)
入門コースでは、いろいろな地域の取り組み事例を学ぶというもので、各回でさまざまな講師が登場します。
その講師が非常に魅力的!
ということで農村プロデューサー養成講座(入門コース)を受講することにしました。
5月17日(月)はその第1回でした。
ちなみに入門コース全6回の講師陣は以下のとおりです。
- 第1回(総論分野) 小田切徳美さん(明治大学農学部教授) ← 今回はココ
- 第2回(イノベーション分野) 谷中修吾さん(一般社団法人 INSPIRE代表理事/BBT大学教授)
- 第3回(行政分野) 澤畑佳夫さん(地方考夢員©研究所所長)
- 第4回(民間分野) 河村玲さん(株式会社 良品計画ソーシャルグッド事業部 スペースグッド担当部長)
- 第5回(都市農村交流分野) 永岡里菜さん(株式会社 おてつたび代表取締役)
- 第6回(地域実践分野) 多田朋孔さん(特定非営利活動法人 地域おこし事務局長)
第1回の小田切徳美さんに関しては、以前にソトコトの指出一正さんや山崎亮さんと小田切さんとのパネルディスカッションがあったセミナーで知って、大好きになりました。
「関係人口」について調べていると、ちょくちょくいろんなところで名前をお見かけします。
第1回の内容について以下に書き留めておきます。
「先進的低密度居住地域」とは
第1回 講師:小田切徳美氏
地域づくりとは何か?
・地域づくりとは、「先進的低密度居住地域」として持続可能な社会とすること(宮口侗廸『地域を活かす』)
・地域はもともと人口密度が低い。それがさらに過疎によって密度が低下した
・コロナ禍で「低密度」であることの価値が社会的に認知されている
●地域づくりのための3原則
①内発性・・・地域の思いと力で
②多様性・・・地域なりに
③革新性・・・今までとは違う方法で
→ これらの原則を踏まえて、「地域をつくりなおす」という発想が大事
●地域づくりの3要素
①暮らしのモノサシづくり・・・主体づくり(人材)
②暮らしの仕組みづくり・・・場づくり(コミュニティ)
③カネとその循環づくり・・・条件づくり(しごと)
→ これらを総合的に行うことが地域づくりである
⇒ 拙著『地域でしごと まちづくり試論』でも、地域に「人」と「しごと」が重要であることを指摘しました。そうした「人」や「しごと」が育まれるために必要なのが「コミュニティ」なのではないかと思います。
⇒ 宮口さんの『地域を活かす』については、私のブログでも以前に紹介したことがありました。地方部こそ人口が少なくても持続していける仕組みをつくることが必要という考え方がおもしろい本でした。(『新・地域を活かす』から学ぶ)
2020年の「食料・農業・農村基本計画」との関係
●農村振興の3つの柱
①しごと・・・農業の活性化、地域資源の高付加価値化を通じた所得と雇用機会の確保
②くらし・・・安心して地域に住み続けるための条件整備
③活力・・・地域を広域的に支える体制、人材づくりや農村の魅力の発信を通じた新たな活力の創出
→ 地域づくりは常に総合的、多角的なものである
⇒「食料・農業・農村基本計画」なつかしい響きです。農業振興課時代にはよく使ったフレーズでした笑
地域づくりのポイント
●地域づくりの2つのポイント
①人材づくり → 最もハードルが高い
②プロセス重視 → 段階性と多様性を意識することが重要
●人材づくり
・人材=当事者意識を持つ人々
「すべては当事者意識から始まる」(長野県飯田市 元市長 牧野氏)
・人材育成の具体的対応
①古くから 公民館活動(社会教育)
②少し前から ワークショップ(地元学)
③少し前から 都市農村交流(交流の鏡効果)
④最も新しい 高校魅力化(高校生の地域参加)
→ これらは農村プロデューサーが意識すべき動きである
⇒ 飯田市元市長の牧野さんの本に関しても、以前ブログでご紹介したことがあります。本書の中では「当事者意識」という言葉が多数登場しており、地域づくりには何よりも当事者意識が必要であることを強く感じました。(『円卓の地域主義』から学ぶ)
●プロセス重視
・政策は打ち出の小槌ではない
→ 実施から成果が出るまでに一定の時間がかかる
・成果指標を施策の目的に設定してしまいがち(誤ったKPI)
→ それによって地域住民の当事者意識がどう変わったかが最も重要
・プロセスが多様なため見えづらくなっている
→ 事例集などではそのプロセスがブラックボックス化している
→ 事例集よりも場面集(どの場面でどのように乗り越えたか)が必要
・プロセス・デザインという発想が重要である
●地域づくりのプロセス・デザインの例
・2段階の地域づくり
①事業準備段階(足し算)
寄り添い型支援
地域の諦観(誇りの空洞化)を払拭するプロセス
何人と何回会ったかが重要
②事業導入段階(掛け算)
専門家型支援
効果が加速しはじめる
●プロセス・デザイン3つのポイント
①時間はコストではなく将来のための投資
②まず目指すべきは課題解決ではなく「主体形成」
③プロセスとは多様な主体の協働によるものである
→ 地域を動かすのは施策のみではない
⇒「主体形成」、つまり「当事者意識」の醸成に関しては、『関係人口の社会学』で関係人口による地域への影響で強調されていたことですね。人から人への影響、「着火型」であることが大事。(『関係人口の社会学』から学ぶ)
⇒ 比企起業大学の周りでも、熱量が人から人に伝播して活動が広がるということをよく目にします。
地域づくりの到達点
・田園回帰の空間分布は、概して西高東低。ただし「まだら状」になっている
・関係人口の空間分布は全国的に「まだら状」
・原因は、地域づくりと田園回帰、関係人口の好循環にある
→ 地域づくりの実践が人を呼び込む
→ 移住者、関係人口が地域づくりを刺激し、活動を活発化する
・他方、「前向きの人がいる地域」と「愚痴の人がいる地域」の格差が拡大している
・東京圏一極集中と田園回帰傾向は併存している(トレードオフではない)
●新しい地域像
・先進的低密度居住地域
人口減・人材増 → 「にぎやかな過疎」
●にぎやかな過疎
・本質=多様なプレーヤー(人材)の交錯
①地域づくりに取り組む地域住民+新たなコミュニティ
②地域でしごとをつくる移住者
③何か関われないかと動く関係人口
④SDGsにより地域貢献を探る民間企業
⑤NPO、大学・・・
・特徴
①人口減だが、地域はガヤガヤ(人口減・人材増)
②人が人を呼ぶ、しごとがしごとを創る
③多様な人材の「ごちゃまぜ」の場(地域の縁側)
④都市・農村共生社会の拠点
→ にぎやかな過疎は、農村プロデューサーが目指す地域像である
→ 農村のみでなく、わが国の地域のあるべき姿である
⇒ 「人口減・人口増」はまさにときがわ町がそうだと思います。
人口は確かに減っているはずなのに、外から見ると「元気」と言われます。その理由は「人材」が増えていたからなんですね。拙著『地域でしごと まちづくり試論』では、そのような人のことを「しごとをつくる人」と表現しています。
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第2回以降も楽しみです!