700人の村がひとつのホテルに

今回ご紹介するのは、株式会社さとゆめの代表取締役である嶋田俊平さん著の『700人の村がひとつのホテルに』

株式会社さとゆめは、地方創生に特化した伴走型コンサルティング会社であることを謳っています。
単に計画をつくるだけ、戦略を立てるだけというよくあるコンサルティングではなく、その後も継続的に地域に伴走しながら一緒に事業をつくり、運営まで手がけているといいます。

全国40か所以上の村や町で事業の立ち上げや運営に取り組んでいるそうですが、本書では、さとゆめが手がけている地域のうち「山梨県小菅村」に焦点が当てられています。

小菅村は多摩川源流の位置する村で、人口は700人程度という非常に小規模な地域だそうです。
人口700人でもこんなことができる。
まずそこに驚きました。

株式会社さとゆめと当村との関わりは8年にも及ぶそうで、2019年には分散型古民家ホテルである「NIPPONIA 小菅 源流の村」が開業されています。
まさにその取り組みが本のタイトルにもなっているんですね。

私も「地域でしごとを共につくる」ということを掲げ、まさに地域の事業者と伴走しながら継続的な事業をつくるということを生業にしておりますので、嶋田さんの姿勢に非常に共感しました。

本書をもとに、地域に伴走しながら事業をつくるというのはどういうことなのか、そしてそれを続けるにはどうしたらいいのかを改めて考えてみました。

私が本書を読んで最も印象に残ったのは次の2点でした。

  • コンサルティングだけではなく、実施までやる
  • 伴走の3つのフェーズ

以下、順に解説していきます。

コンサルティングだけではなく、実施までやる

一つ目は「コンサルティングだけでなく実施までやる」。

嶋田さんは長年、NPOやコンサルタントとして地域に関わっていたといいますが、仕事をする中である問題意識を抱いたといいます。

それは「リスクを負うのはいつも地域の人たち」ということでした。

私も公務員時代に経験しましたが、何かの計画を立てるというとき、外部のコンサルティング会社に計画づくりをお願いしたりするんですけれども、彼らが関わるのは計画づくりまでということがほとんどです。
つまりそれを実施するのは地域の自治体や事業者や住民しだいということです。

自分たての地域のことなので当たり前といえば当たり前かもしれません。

もちろん地域が一つになってやろう!という機運が高まれば、うまくいく地域もあるかと思います。
でも残念ながらそういう地域ばかりではないというのが現状です。
かくして高いお金を出して立派な計画はつくったものの、なかなか実行されない、絵に描いた餅になってしまうということが多々起きています。

嶋田さんはコンサルタントの立場からその問題に直面したのです。

そこで嶋田さんが考えたのは以下のようなことでした。

NPOやコンサルタントとして地域に関わる中で、あくまで黒子として地域を支えるのが役割だと思い込んでいた。

でもそれは自分が心のなかで勝手に拵えた独りよがりな壁であって、自分が事業主体になってもいいのだ。

事業主体になるということは、これまで地域の人たちが負っていたリスクを自らも負うということです。

ですがリスクを取る覚悟を決め、自ら事業主体になったことによって、地域や関係者からの信用に繋がったのだといいます。

このことは改めて地域で事業をつくる上で非常に重要な視点だと思いました。

地域の外の事業者がいくら計画づくりに一生懸命に関わったとしても、地域の外にいるわけですからほとんどリスクはありません。
かといって地域に本社を移すのは容易ではない。
であれば事業主体となることによって、地域の主体が負っているリスクを自らも負うことができます。
その覚悟こそが信用につながり、その信用が地域の人を動かすことにつながるということだと思います。

私も住んでいる地域とは異なる地域でしごとをすることが多いため、自ら事業主体となって実施までやるリスクを負うということの意味を非常に考えさせられました。

伴走の3つのフェーズ

二つ目は「伴走の3つのフェーズ」です。

伴走の3つのフェーズとは何かというと、

1 NPOフェーズ
2 コンサルフェーズ
3 事業フェーズ

のことです。
それぞれ簡単にご説明すると、一つ目のNPOフェーズとは、地域の人たちの熱い思いなどをしっかりと把握し、構想や企画に落とし込むなど、地道な活動を続けて、いかに地域に寄り添えるかが重要なフェーズです。

二つ目のコンサルフェーズとは、NPOフェーズで把握した地域の人たちの想いに基づいて、具体的な計画をつくり、予算やスケジュール、合意形成など、様々な調整を行っていくフェーズです。

そして三つめの事業フェーズとは、プロジェクトを実行に移すとともに、事業収益を継続的に生み出して、地域が継続して自走できる仕組みを整えていくフェーズです。

このようの3つのフェーズを経ることで、ただの計画づくりや一つの商品開発に終わるのではなく、継続的に収益を上げられる事業や産業をつくったり、その循環の中から地域が活性化させることができるのではないかと思います。

それが本当の地域活性化、地方創生であると述べられていました。

地域で事業をつくることの意義はそこにあります。

一つ一つの商品やサービスをつくることももちろん大事ですが、それを連続してやること・続けることが重要です。

一つ一つは小さくても、長く続けることでその中からいろんな小さい変化がたくさん生まれるような、長い目で見れば地域全体として大きな変化が生まれるような、そんな事業をたくさんつくっていきたいと思いました。

まとめ

今回は、伴走型コンサルティング会社・株式会社さとゆめの代表取締役である嶋田俊平さん著『700人の村がひとつのホテルに』をご紹介しました。

本書から最も印象に残った2つのことについて考えてみました。

  • コンサルティングだけではなく、実施までやる
  • 伴走の3つのフェーズ

私自身の事業に通じるものがたくさん言語化されていたと感じます。

幾度も読み返して、対話しながら共感する点、異なる点を探し、自分の事業に反映していこうと思います。

小菅村、調べてみると自宅から2時間ほどの場所だそうで、これは一度行ってみないといけませんね!

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忙しくて本を読む暇がない、ここに書かれていることを何度も読み返したいという方に向けて、音声配信アプリstand.fmのチャンネル「地域でしごとをつくるラボ」でも本書『700人の村がひとつのホテルに』のご紹介をしています。

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よろしければこちらも合わせてご活用ください。

stand.fm「地域でしごとをつくるラボ」でのご紹介はこちら

まとメモ

・「地方創生」が政策として打ち出され、最近では「SDGs」という言葉もよく耳にするようになったが、実際に現場で働いていると、その成功のカギを握るのは、「地域」の人たちとの関わり方にこそあるように思える

第1章 ”ふるさと”を仕事にする

・愛する風景や暮らしは、自分で守らないと、そこにあり続けることはないのだ。暮らしを支えるための産業を創り出していかなければ何も守ることはできない

第2章 「さとゆめ」の創業

・いかに優れた「計画」や「戦略」を練るかがすべてで、それをどうかたちにしていくかは、それぞれの地方自治体の体制次第。「この計画通りにやればうまくいくはずですよ」というところまでがコンサルティングの仕事なのだ。極端な言い方をすれば、「あとはそちらで頑張ってね」というスタイルである
 ⇒ 行政の仕事はまさにPDCAの「P」が大きすぎ、Dより先に進まないことが多い。むしろDの先にあるものの方が大事

・いつでもリスクを背負うのは地域の人たちなのだ

・そのビジネスモデルとは、一言で言うと、都市と農山村の「相互作用」を創出する「双方向」ビジネスというものだった。・・・
 このビジネスモデルの肝は、農山村側(山村部の自治体、森林組合など)と都市側(事業会社、広告代理店、NPOなど)、双方のクライアントと関係を深めることにある。求める「価値」が双方でくい違うことも多く、片方のクライアントとのつきあいのなかから得られる情報(インプット)を相手側の求める価値(アウトプット)とどうすり合わせていくかが重要になってくるのだ

・私は起業とは仮説の検証だと考えている。多くのクライアントの切実な思いに接して、「地域は伴走を求めている」という仮説を実証できたという手応えがあった。顕在化していなかっただけで、多くの地域が明らかに「伴走」を求めていたのだ
 ⇒ 仲間と運営しているときがわ社中も、地域の行政や民間プレーヤーが「いつでも気軽に悩みごとを相談できる」「一緒に事業をつくっていく」ことをモットーにしている

第3章 「伴走」で地域の未来を変える

・道の駅といえば蕎麦やうどん、定食などを券売機で売る食堂を併設するのが一般的だ。交通量の多い国道脇なら、そういう普通の道の駅でもトイレ休憩がてら立ち寄ってもらえるかもしれないが、こんな山奥の不便な場所にある道の駅には、「わざわざ行きたい」と思えるようなコンテンツがないと誰も来てくれない
 → 立ち寄り型ではなく、目的地型
 ⇒ まさに比企郡内の施設利用を、目的地型の視点から検討している

第4章 700人の村がひとつのホテルに

・小菅村では、いいアイデアがあればだれもが村長に直接提案できる。こういうオープンマインド、即断即決のリーダーが地域を変革していくのだ

・藤原社長によれば、分散型ホテルを謳って収支を成り立たせるためには、少なくとも4棟は必要だという。さらに、何部屋の客室をとれるか、建物の傷みはどの程度か、アクセスは良いのか等の要件に加えて、「地域の方々の理解・共感を得られやすい建物か」「小菅村の古民家ホテルにふさわしい建物か」も重要になってくる

・実は人口減少、高齢化が進む地域では、新しい事業を立ち上げようにも、それを実際に運営していく人手が足りないのだ。小菅村でも、若い働き盛りの村人は、すでに自分の仕事を持ち、集約の祭りや行事、コミュニティ活動などで、朝から晩まで忙しくしていて、とても新たな事業に携わる余裕はない

・私はこれまでNPOやコンサルタントとして地域に関わってきたが、あくまで黒子として地域を支えるのが役割だと思い込んでいた。だがそれは、自分が心のなかで勝手に拵えた独りよがりな「壁」であって、自分が事業主体になってもいいのだ

・自分のなかの「壁」を壊し、リスクをとる覚悟を決めたことが、地域や関係者からの信用に繋がっていったのだろう。私はこの過程で、「覚悟が真ようになる」ということ、そして「信用こそが人を動かす」ということを、身をもって学んでいった

・いかにいいかたちで村民を巻き込んで、一緒になってホテルをつくっていけるかが、なによりも重要だと私は考えていた。自分たちの村に必要はホテルだと思ってもらえなければ成功はない

・村に周知する四段階
  第一段階 村のなかに情報の受け手を置く
  第二段階 実務者へ発信する
  第三段階 高齢者へ発信する
  第四段階 最後に、全村民へ発信する

・高齢者の拡散力はTwitterより速い

第6章 「さとゆめ」というプラットフォーム

・「伴走」の3つのフェーズ

A NPOフェーズ・・・熱い思い、地域に寄り添う姿勢、地道な積み重ね、ボランティア精神

B コンサルフェーズ・・・顧客の顕在・潜在ニーズの把握、プロジェクトの要件定義、品質・予算・スケジュールの管理、多方面との良好なコミュニケーション

C 事業フェーズ・・・ビジネスモデル構想力、ファイナンスへの深い理解、不測の課題への対応力、必ずやりきる精神力

・三つの素養のなかでいちばん重要なのは「NPO的素養」・・・これらを持ち合わせていれば、フェーズB、フェーズCで様々な壁に直面しても、必ず乗り越えていける。その過程で、コンサル素養、事業化的素養は自ずと身についてくる

・「NPOフェーズ」で常に意識しているのは、地域の人たちのモチベーションをいかに上げられるか
 「地域が抱える課題はなんですか?」<「地域がどうなったら嬉しいですか? みなさんの夢は何ですか?」

第7章 十年後を見据えての地方創生

・「地域に受け入れられるか」の三段階

NPOフェーズ・・・地域のリーダー3人程度の信用・信頼をいかに得るか。地域住民に影響力を持つリーダーにお墨付きをもらえれば、地域の重要人物ともつながり、地域のなかで格段に動きやすくなる

コンサルフェーズ・・・役場や活動団体、地域住民など、地域のステークホルダー30人ほどの利害を調整しながらサービスや運営体制等をいかに構築していくか

事業フェーズ・・・まず300人ほどのお客様に満足してもらい、ファンとしてリピートしてもらえるかが重要になる

・「地域に受け入れられた・受け入れてられなかった」と曖昧に認識するのではなく、「3人・30人・300人」と段階的に解像度を上げて考えていく。そうすることで、地域からの信頼は格段に得やすくなる