これからの「起業」の良きヒントに

今回取り上げるのは、株式会社ボーダレス・ジャパン代表取締役社長である田口一成さんの初著書『9割の社会問題はビジネスで解決できる』です。

ボーダレスグループは今や世界15か国で40社がソーシャルビジネスを展開していて、約1500人の従業員がいるそうです。

著者は本書の中で、「ボーダレスグループは『自分はこんな社会問題を解決したい』という志を持った起業家が集まる『社会起業家のプラットフォーム』」であり、「社会起業家の数=解決できる社会問題の数」であると述べています。

本書ではボーダレスグループが社会起業家を輩出していく仕組みが詳細に書かれています。
私はそれらが、これからの「起業」において重要なヒントになるのではないかと思いました。

私のミッションは、「地域でしごとをつくる人をつくる」です。
今は起業して2年目ということで、自らのしごとをつくっている段階ですが、いずれは「地域でしごとをつくる人」づくりにも取り組んでいきたいと考えています。

そうした今後のことも見据えて、ボーダレスグループの社会起業家育成の仕組みと、私が学んできた比企起業塾(現・比企起業大学)とを比較しつつ、これからの「起業」において重要なことについて考えてみたいと思います。

比企起業塾(比企起業大学)とは?

比企起業塾(比企起業大学)とは、埼玉県比企郡ときがわ町の「ときがわカンパニー合同会社」が主宰する起業家育成塾です。

2017年度から、比企周辺地域で起業するミニ起業家を育成するために比企起業塾を開始し、2020年度まで4期で20人のミニ起業家(またはミニ起業家候補者)を育成しています。

2021年度からは新たに「比企起業大学」と改称して、大学では起業家マインドを学び、大学院では実際の起業に向けたお客さんづくりに取り組むこととしています。

比企起業大学の公式サイトはこちら

私は2018年に、比企起業塾に2期生として参加し、2020年3月に公務員を退職して起業しました。
現在は比企起業大学のサブ講師を務めています。

比企起業塾(比企起業大学)が育成を目指すのは、「地域で起業するミニ起業家」です。
比企起業塾(比企起業大学)が育成するミニ起業家の特徴として、以下のような点があげられます。

  • 小さくはじめて、大きくせずに、長く続ける
  • 自分や身の回りの家族を大切にする
  • 年商300~1000万円
  • 仲間も応援する
  • 地域に密着している

これらを踏まえ、次にボーダレスグループと比企起業塾(比企起業大学)との共通点を見ていきます。

ボーダレスグループと比企起業塾(比企起業大学)に見られる共通点

比企起業塾(比企起業大学)が目指しているのは社会起業家ではありませんが、ボーダレスグループの社会起業家育成の仕組みといくつもの共通点があると思います。

その中で、特に強調したい重要なポイントは、以下の3つです。

①小さくスタートする
強み(個性)に集中する
仲間を大事にする、恩送り

順に述べていきたいと思います。

①小さくスタートする

本書の中では次のように述べられています。

新規事業を軌道に乗せるには、トライ&エラーを繰り返すことが大事です。大きな金額を投資したものは、それを回収しなきゃといつまでもやり続けてしまいます。小さく始めた方が、より早く軌道修正することができます。小さなトライと小さな失敗をどんどん繰り返すうちにはじめて答えが見えてくるのが事業です

スケールを追いかけるのは、黒字化できるモデルができたあとでいい。まずは、最小単位で素早く試行錯誤を繰り返す。いきなり何店舗もやると、お店を回すのに忙しくなり、いろいろなテストができなくなります。小さく始める。これが確実に成功させるための鉄則です

『リーンスタートアップ』という本にもあったとおり、まずは「小さくスタートする」というのは事業の規模や起業する場所に関わらず、事業を始める上での鉄則ではないかと思います。

いきなり大きな資金をつぎ込んだり、固定費がかかる建物や社員を雇わずに、今あるリソースを活かしてできるところから始めるということですね。

ただし、比企起業塾(比企起業大学)が育成するミニ起業家では、「小さく始めて、大きくせずに、長く続ける」ことを重視しますので、この点が違う部分かもしれません。

②強み(個性)に集中する

本書では次のように述べられています。

強いこだわりこそが、起業家の個性だからです。その起業家の個性、こだわりの思想が、最後には今までにない新しい世界をつくっていく

ビジネスである以上、利益を上げなくてはなりません。
そのためにはお客様からお金を頂く必要があります。
それにはお客様のニーズに応えることが重要になります。

それは比企起業塾(比企起業大学)でも同じで、「お客さんづくり」を最重要ポイントとして位置づけています。

ただ、起業する以上、そこには強いエネルギーが必要だと私は思います。
強いエネルギーとは、自分がやりたいことへの強い想いであり、熱量であり、それが起業を支えたり、推進するための力になります。

それがないと、長く続けるのはシンドイですし、困難にぶつかったときに心が折れてしまうかもしれません。
また、アレコレやってしまうと力が分散してしまいますので、何をやっている人なのか、どんなことが得意なのかが周りから分かりづらくなってしまいます。
(まさに私自身が今抱えている課題がこれだったりします・・・)

やはり「好き」とか「やりたい」ことを明確にし、一点突破していく方が周りに伝わりやすいでしょう。
(比企起業塾(比企起業大学)では「ランチェスター戦略」でそのことを学びます)

仲間を大事にする、恩送り

本書では次のように述べられています。

今までは、起業に挑戦するというのは孤独な戦いでした。でも、必ずしもそうする必要はないのです。チャレンジャーこそ、みんなで助け合う関係性を求めています。みんなで助け合えば、一人が孤立してやるより、社会はもっと早く、もっと良くなる

起業家たちは、「自立したい」と思っていても、「孤立したい」とは思っていません

私が比企起業塾で一番印象に残ったのも、「仲間」の存在でした。

自分以外にも先輩・後輩などの同僚がいる会社と違って、起業は「孤独」というイメージがありましたし、比企起業塾で出会った先輩方もそのようなことを話していました。

でもだからこそ、比企起業塾では仲間とのつながりが大事だと考えられていて、単に知識やスキルを学ぶだけでなく、積極的に学び合ったり、関わり合ったり、応援し合ったりすることがよくあります。

卒塾して起業した今でも、仲間とのつながりは非常に励みになっており、これからも大切にしたい「財産」だと思っています。

そんなこともあり、ボーダレスグループで実施されている経営者同士の会議の場や事業資金の供出などの仕組みは、非常に印象に残りました。

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以上、ボーダレスグループと比企起業塾(比企起業大学)の共通点として、

①小さくスタートする
強み(個性)に集中する
仲間を大事にする、恩送り

について述べてみました。

私は地域でしごとをつくることを大きなテーマとしていますので、こうしたチャレンジしやすい環境を地域につくっていくことが、地域を元気にするために重要なことではないかと考えています。

これまで学んできたことをこれからも大切にしていくため、改めて胸に刻みたいと思います。
(とともに、集中する(できる?)「強み(個性)」も徐々に見極めていきたいですね!)

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以下は本書で気になるところを抜粋した個人的なまとメモです。

「⇒」部分は個人の感想、意見

まとメモ

・ボーダレスグループは「自分はこんな社会問題を解決したい」という志を持った起業家が集まる「社会起業家のプラットフォーム」

⇒ 「プラットフォーム」には人が人を呼ぶという吸引力がある。比企起業大学はミニ起業家(またはミニ起業家候補者)が集まる「ミニ起業家のプラットフォーム」ということができる

・ビジネスが引き起こしてきた問題は、ビジネスが変わることで解決できる

第1章 「社会問題を解決するビジネス」を次々と生み出す仕組み

・従来のビジネスが対象とする「不」は、基本的にマーケットニーズがあるものです。その不満や不便を解消してくれることに対して、十分なお金を払える人たちを対象としています。・・・一方、ソーシャルビジネスが取り扱うのは、「儲からない」とマーケットから放置されている社会問題です。・・・こうしたマーケットから取り残されている社会問題にビジネスとして取り組むのがソーシャルビジネスなのです

・資本主義社会におけるビジネスの本質は、一言でいえば「効率の追求」です。・・・効率の追求という資本主義の基本原理が様々な社会問題を生んでいる

・効率を追求するあまり、取り残されてしまう人や地域が出てくるというビジネスのあり方こそが原因なのであれば、そのビジネスにおいて対策を講じることが本質的な解決策です。すなわち、非効率をも含めて経済が成り立つようにビジネスをリデザインすることです

・ビジネスとして取り組むべき理由をもう一つ加えるとすれば、生活者が消費活動を通じて社会問題の解決に貢献できるようになるということです

・「社会貢献になるから買う」だけではなく、シンプルに「モノがいいから、サービスがいいから買う」という要素がないと、選び続けてもらえない

・一般的なビジネスは、「マーケットニーズは何か、これから大きく成長する市場はどこか」を探して事業領域を決めていきます。つまり、マーケットニーズが起点です。
 それに対して社会起業家は、「マーケットニーズがあるからここでやる、ないからやらない」ではなく、解決すべき社会問題があるところで起業します。そのうえで、利益が出るように工夫していく。彼らがつくっているのは、社会ソリューションであって、あくまでも「ビジネス」は手段にすぎない。社会起業家は、ビジネスという手段を使った社会活動家なのです

・マーケットでは、通常の”効率の良い”ビジネスと同じ土俵で勝負しなければいけない。そのため、価格競争をするのではなく、いかに付加価値を高めるか、ということが絶対条件になります

・社会起業家の数=解決できる社会問題の数

・自分が受けた恩を、次のチャレンジャーへ送る。これを「恩送り」と呼んでいて、ボーダレスグループの相互扶助エコシステムの柱となっています

 ⇒ 自分が受けた恩を与えてくれた人に返す「恩返し」ではなく、次の人に送る(贈る)。自分が応援してもらったら、今度は他者を応援する

・ボーダレスグループに関わる大事なことはすべて、グループに参加する全社長の合議によって決まります。全員が等しく1票を持ち、拒否権を持ちます。全員賛成が原則です。・・・もし、多数決が採用されて、自分の意に反して物事が決まっていくなら、組織に対する「自分ごと感」は薄れていくでしょう。それでは、助け合いもノウハウの共有も起こりません

 ⇒ それぞれの会社が一つの独立した経営体でありながら、グループ全体でも「共同経営体」としての仕組みをつくっている

・起業家たちは、「自立したい」と思っていても、「孤立したい」とは思っていません

・MM会議
 経験のある人間が、正解らしきことを言うのではなく、自分たちで教え合い、学び合う寺子屋のようなシステム

・新規事業を軌道に乗せるには、トライ&エラーを繰り返すことが大事です。大きな金額を投資したものは、それを回収しなきゃといつまでもやり続けてしまいます。小さく始めた方が、より早く軌道修正することができます。小さなトライと小さな失敗をどんどん繰り返すうちにはじめて答えが見えてくるのが事業です

・資本主義は、最初にお金を持っていた人(資本家)が富み続ける仕組みです。・・・富める者がさらに富むというスパイラルを断ち切るために、出資額を超えた分の受け取りを拒否してもいいのではないか

・創業者というのは、起業当初は一番苦労して、給料もろくにもらわず、誰よりも頑張った人です。・・・だから、社員と給料に差があること自体は否定しません。といって何十倍、何百倍も差があってもいいかというと、それは違う。最初は自分が一番苦労したかもしれないけれど、会社が大きくなり、今も存在しているのは一緒に頑張ってくれている社員のおかげです

・僕たちは社会問題を解決するために事業をしているので、その目的をはたすために自分たちが追いかけるべき成果を明確にした独自の指標を持っています。それが、解決したい社会問題に対してどれだけインパクトを与えられてかを数値で表した「ソーシャルインパクト」です

・世界中のあらゆる地域に、その地域課題を解決しようとするローカルソーシャルビジネスがたくさんある世界。GDPへの大きな貢献はないかもしれませんが、それこそが私たちの実際の暮らしを良くしていくのだと思います

 ⇒ 一般社団法人ときがわ社中が目指す姿、地域内に「ちいさなおもしろいを、いっぱいつくる」に似ている。ひたすらローカルに徹する

・一つひとつは小さいながらも、その分野でキラリと光る社会ソリューションを生み出している。そういう小さな巨人「Small Giants」が孤立せず、集まって、お互いに協力し合うことで確実に社会インパクトを出していく。それがボーダレスグループが目指す姿です

・ソーシャルビジネスは、社会変革を起こすための手段であって、ビジネスそのものが目的ではありません。事業が成功するかどうかは、起業家本人がつくりたい社会像が明確か、そして本気でその理想の社会を実現したいと思っているか、にかかっています

第2章 この”仕組み”がどうやって生まれたのか。その実験の歴史

・「出資」で得た資金は返済義務がありませんが、その代わり出資者=株主の意見を無視できなくなります。もしも「社会貢献は儲かってからするもの」という考え方の株主がいたら、もしくは途中でそのような考えに変わったら、自分の信じる道を歩めません

・リーダーに大事なことは、大きな絵と一緒に、そこへたどり着く道筋も説明できるかどうか

第3章 「社会問題を解決するビジネス」のつくり方

・起点はソーシャルコンセプトであり、そのソーシャルコンセプトで描いた社会を具現化する手段としてビジネスモデルがある

・ソーシャルコンセプトという社会づくりの設計図=「幹」がしっかりあるからこそ、ビジネスモデルという「枝葉」の部分はどんどん変えていける

・自分の人生をどのテーマに捧げるのか、一つに決める必要もまったくありません。一つに決めようとするから、先に進めなくなるのです。・・・やりたいことはいろいろあっていい。でも現実的にすべてを同時に始めることはできませんよね。どうせ、一つずつ順番にやっていくしかないのです。まずは一つしっかり形にしてこそ、次の挑戦にいける

・原体験などなくても、自分が素直に関心を持ったテーマに取り組めばいい

・ソーシャルビジネスというのは、みんなで社会の「穴」を埋めていく作業です。誰か一人で社会の穴を埋めることはできません。だから、社会起業家に必要なのは、同じ穴を競争して取り合うことではなく、まだ放置されたままの隣の穴を埋める役割分担です。これからのビジネスに必要なのは、「競争」ではなく「共創」なのです

・事業が立ち上がった瞬間から、毎月そのソーシャルインパクトを数値として追いかけることで、ソーシャルコンセプトからズレずに、社会問題を解決することができます

第4章 ビジネス立ち上げ後の「成功の秘訣」

・うまくいかない事業はたいてい、事業が軌道に乗る前に組織課題を抱えたところです。組織に課題がある事業は絶対に前に進みません
 → 成長期に入るまでは、絶対に社員を雇ってはいけない

・スケールを追いかけるのは、黒字化できるモデルができたあとでいい。まずは、最小単位で素早く試行錯誤を繰り返す。いきなり何店舗もやると、お店を回すのに忙しくなり、いろいろなテストができなくなります。小さく始める。これが確実に成功させるための鉄則です

・強いこだわりこそが、起業家の個性だからです。その起業家の個性、こだわりの思想が、最後には今までにない新しい世界をつくっていく

・起業家に対して「成功するまでやり続ければいい」と言えるために必要なのはペイシェントマネー、すなわち忍耐強いお金です。事業資金は提供されたものの、早く独り立ちして返してほしいという空気だったら、起業家たちは安心して挑戦できません。事業が成功するまで何度でも失敗していい、という環境をいかにつくれるか。これが重要だと僕は思っています

終章 一人ひとりの小さなアクションで、世界は必ず良くなる

・今までは、起業に挑戦するというのは孤独な戦いでした。でも、必ずしもそうする必要はないのです。チャレンジャーこそ、みんなで助け合う関係性を求めています。みんなで助け合えば、一人が孤立してやるより、社会はもっと早く、もっと良くなる

・ソーシャルビジネスの役割は、より良い社会をつくるための新たな選択肢を消費者に提示することですが、一方で、その新たな選択肢を受け取る消費者がいなければ成立しません。つまり、提示する人も大切だけれど、受け取る人も大切。その両方の存在があってはじめて社会は良くなっていくのです

・社会問題に対する無関心な人が増えていると言われていますが、その多くは本当のことをちゃんと知らないだけ。つまり「無関心」なのではなく、「未認知」なのです