「人口」から地域を見る
今回、ご紹介するのは『「豊かな地域」はどこがちがうのか 地域間競争の時代』です。
この本を選んだ理由はただ一つ、年代別の人口増減を見える化する「コーホート図」という分析方法に興味を持ったからです。
普段、私は「人口増を目指すことは人口減少社会においてはゼロサムゲームでしかない」といっており、人口増は目指さないということを掲げています。
でも、だからといって人口をまったく見なくていいかというと、そんなことはありません。
むしろ、人口という結果として表れた数字を見ることで、得られるものも多いと思っています。
特に行政の立場からは、人口が地域を分析する指標として最もわかりやすいことは間違いないでしょう。
たとえば、どんな年代の人が多いか/少ないかを見ることで、地域の人にとって必要なことを考えるヒントが得られるかもしれません。
また、各年代ごとにどの程度増減したかを見ることで、施設の不足や過剰を検討するのに役立つかもしれません。
人口の分析で最も多く見られるのは、地域における総人口の推移ですが、本書ではある時期における各年代別の人口増減を見る「コーホート図」が紹介されていましたので、これについて詳しく見ていくことにします。
コーホート図とは何か
コーホート図とは、簡単にいえば「ある集団のある期間における人口変化を示した図」のことです。
本書では特に「5年間における各年代別の人口増減」に焦点を当てています。
このやり方は東洋大学の大学院でも、どこからの地域を訪れて何かを調べる際には必ず活用している方法だそうです。
通常、人口統計だと、0~14歳を「年少人口」、15~64歳を「生産年齢人口」、65歳以上を「高齢人口」という3階層の年代別に人口を区分して、それぞれの推移を見ることが多いです。
ですが、確かにこれだとざっくりすぎて、具体的に何か政策を考えるには不十分でしょう。
そこで本書で紹介されているコーホート図の書き方では、以下のように年代を区分して、それぞれの年代の意味を定義しています。
0~4歳:乳幼児期
5~9歳:小学生期
10~14歳:小学校高学年・中学生期
15~19歳:高校生・大学生期
20~24歳:大学生・就職期
25~29歳:就職期
30歳代前半、後半、40歳代前半:子育て世代
40歳代後半以降:年代表記
コーホート図の具体的な作り方の手順は以下のとおりです。
【コーホート図の作り方の手順】
①5歳階級別人口データを5年間隔で用意する(5年ごとに実施される国政調査のデータを使うと良い)
②調べたい地域の5歳階級別人口データをダウンロードする
③新しい調査年の年代別人口から、古い調査年の5歳下の年代の人口を差し引く(同じ年代の人口ではなく、5歳下の年代の人口を差し引くという点に注意)
④横軸を年齢階級、縦軸を増減人数として、それぞれの年代の増減数を折れ線グラフで表示する
これによって、ある年代の人たちが5年間で何人移動したか(増減したのか)が視覚的にわかるようになります。
仮にある年代の人が5年間の間に誰もその地域から出ていかず、誰も入ってこなければ5年後の人数も変わらないことになりますし、10人増えていれば、地域から出ていった人と地域に入ってきた人の差引がプラス10人だったということです。
また、この図を書くことによって、地域ごとの特徴をとらえることができるようになるといいます。
たとえば全寮制の高校が地域にあったとすると、ある年代では一気に増え、それを過ぎた年代でガクンと増えるというようなことも起こる。
するとそれだけその高校が地域の人口に与える影響が大きいということがわかるわけです。
本書では、コーホート図を使っていくつかの地域を分析した事例も紹介されています。
これは興味深いです!
ただ実際にやってみないとなんともいえない。
ということで、やってみることにしたいと思います。
対象とする候補地としては、やはり関わりのある地域がいいだろうということで、ときがわ町、坂戸市、草加市、越谷市あたりを考えています。
いつ、とは言えませんが、次回以降でこれらの地域についてコーホート図を書いてみようと思っています。
どんな結果が出るのか楽しみにしたいと思います。
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以下、本書の気になる箇所をまとメモとして抜粋しています。
「⇒」は個人的な考えや感想です。
(↓ まとメモはこちらから)
まとメモ
はじめに
・人が動くには理由があります。人が増えているとすれば何らかのプラスの要素が、人が減っているとすれば何らかのマイナスの要素があります。どの年代の人がどの程度増減しているかを見れば、その地域が持っているプラス/マイナスの要素を浮かび上がらせることができます
第1章 地域間競争の時代がはじまる
・観光と違って、日本人は日本志向が強く外国を選ぶことはまだまれですが、安全、環境、費用などに大きな差がついてくると、日本人でも日本に住んでくれるという保証はなくなります。いわんや、国内での移動ははるかに抵抗が少ないでしょう。・・・一度ふるさとを出た子どもたちが、いずれは返ってきてくれると安易に期待してはなりません
・地球規模での地域間競争の結果は、人口の増減に表れます。魅力のある地域には人が集まり、魅力のない地域からは人が出ていきます。少なくとも自由主義の国では、人が地域間を移動する動きを成約することはできませんから、人口増減がもっとも客観的な成果です
⇒ 「魅力のある・ない」は他との比較による相対的なもの。人口の増減数は客観的な数字ではあるが、人が動くのは主観による。あくまで人口は結果でしかない
・各世代の意味の定義
0~4歳:乳幼児期
5~9歳:小学生期
10~14歳:小学校高学年・中学生期
15~19歳:高校生・大学生期
20~24歳:大学生・就職期
25~29歳:就職期
30歳代前半、後半、40歳代前半:子育て世代
40歳代後半以降:年代表記
第2章 「豊かな地域」はどこがちがうのか
【豊後高田市の商店街再生の事例】
最初から、商店街全体の合意をとろうとしなかったことは賢明です。総意を得るのは不可能でも、一部の賛成者を見つけだすのは難しくありません。そして、賛成した人たちと先に進めれば良いだけです。ディズニーランドではないので、隅から隅まで昭和の町にする必要はありません。訪問者は、自分にとっての昭和の町に合うシーンを勝手に選び出して、満足してくれます
・地域の人材や資源にこだわらないという点です。地域で何か施設を作ろうとすると、すべて地域資源で作り上げることが必要だと考えがちです。しかし地域の資源には限りがありますので、それだけに限定すると中途半端なものになってしまいます
【大阪市此花地区のテーマパーク誘致の事例】
・ディズニーランドは巨大なショッピングセンターである
それは、飲食販売や商品販売(おみやげ)の支出が助けになっているからです。現在のオリエンタルランド社の売上のうちチケット収入は4割にすぎません。
【長野県下條村の地域経営の事例】
・こうした活動は「おらが村」の発想だと思います。他人に頼るのではなく、自分たちの村のことは自分たちでやるとの考え方です。・・・このように、自分たちで大事だと思うことを選び出し、そこに予算を集中して、その代わりに他の部分は身の丈に合った程度に抑えていくという「選択と集中」の姿勢は、理想的な自治体経営だと思います
【岩手県遠野市の災害援助の事例】
・今までは、まず被災した市町村みずから都道府県を通じて国に支援を求めるというピラミッド形の発想でした。しかし、自治体機能を喪失するほどの大きな被害が発生した場合、一番近くにいる人が助けるのが自然でしょう。基礎自治体同士であれば、何が必要でどのような問題が起きそうかもあらかじめ理解できます。手に取るような支援ができるのです
第3章 シティ・マネジメントへの誘い
・シティ・マネジメントとは、政策目的を達成するための政策手段を多様に考えられること、地域の客観的データを分析できること、それにもとづいて可能な選択肢を提示できること、それぞれの選択肢の長所短所を明示できることだと思います。これができれば、別に法制度の制約がなくても良いマネジメントはできると思います
・残念ながら、日本の実情は、そうなっていません。多くの議員や市民は、断片的な部分だけに目を向けて総合的な長所短所を考えようとしません。無駄な公共投資が行なわれ借金が増えることも珍しくありません。そうなった大きな原因はシティ・マネジメントができていないことです
・議員や市民が選択肢を前にして真剣に議論すれば、さらに別の選択肢が出てくるでしょう。それでもかまいません。新しい選択肢の長所短所を分析して追加していきます。制作として決定されるまでの間、同じ作業が繰り返されます。政策として決定されても、その実現の家庭で同じようにチェックと修正が繰り返されます。このすべての活動がシティ・マネジメントです