ジブンゴトとしてのまちをつくる

今回は、『ローカルベンチャー』に引き続き、私的まちづくりバイブルの中から『鎌倉資本主義』をご紹介します。

「ジブンゴトとしてまちをつくるということ」

この副題がいいんですよね!

まなびしごとLABの「しごと」も、ジブンゴト(私事)として仕事の意味も込めており、地域でそうしたしごとをする人をつくっていくことをミッションにしていますので、かなりこの副題には惹かれます。

本書に通底するテーマは、一言でいえば「地域の本当の豊かさとそこに生きる人の幸せとは何か」ということです。
そしてそれらを高め、地域を元気にしていくためにビジネスができることという視点は、私にとって学ぶところが大きい本でした。

そこで、ここでは、『鎌倉資本主義』から次の3点を取り上げ、私の感想と考えを述べていきたいと思います。

①「地域資本主義」とは何か?
②「誰とするか?」「どこでするか?」「何をするか?」
③地域コミュニティが「幸せ」をつくる

「地域資本主義」とは?

地方創生とは、地球環境汚染や富の格差の拡大といった資本主義が抱えている課題に立ち向かう取り組みであるとしています。

資本主義の課題が生じたのは、GDPという単一の指標を企業や国が追い求めすぎているからであり、GDP以外の豊かさの指標をつくることが、それらの課題を解決することにつながることになるのではないか。

こうした問題意識から、柳澤さんは、GDP以外の豊かさの指標として「地域資本主義」を提唱しています。

「地域資本主義」という言葉は、柳澤さんの造語で、地域には以下の3つの資本があるといいます。

①地域経済資本
②地域社会資本
③地域環境資本

「地域経済資本」とは、財産や生産性のことで、従来の資本主義でいうところの「資本」の地域版といったところです。

次の「地域社会資本」とは、端的にいえば人のつながりのこと。
地域における人と人のつながりや、趣味や目的を同じくする仲間、地域のコミュニティを地域にある資本の一つととらえたものです。

三つ目の「地域環境資本」とは、地域にある自然や文化のこと。
『ローカルベンチャー』で「自然資本」という言葉が使われていたように、地域の自然や固有の文化それ自体が地域の資本であるとするものです。
観光分野で使われる「地域資源」という言葉に近いでしょうか。

この3つの地域資本が、地域の豊かさや幸せを測る新しいモノサシになるのではないかというのが柳澤さんの考えです。
そして、短期的な経済合理性だけを追い求めるのではなく、これらの地域資本の価値増大による地域の多様な発展により、地球環境汚染と富の格差の拡大といった従来の資本主義の課題解決につながっていくとしています。

従来の資本主義が置き去りにしたものは、一言でいえば、「個性」ではないかと私は思います。
人の個性もそうですが、地域の個性ということも含まれます。
国全体、世界全体が画一的な経済成長のみを追い求めた結果として、本来、一人ひとりの人間や個々のローカルな地域が持っていた個性が顧みられなくなってしまった。
それどころか、経済成長の足かせになるものとして排除しようとしてきたのではないかと思うのです。

そうした中で、忘れさられていた地域の個性や多様性に焦点を当て、価値として再発見し、地域の資本として高め、循環させようというのが地域資本主義の趣旨だと理解しています。

「誰とするか?」「どこでするか?」「何をするか?」

柳澤さんは、ビジネスを考える上での3つの問いを、それぞれ地域資本主義にあてはめて考えています。
ここは簡単にいきましょう。

①誰とするか?

「誰とするか?」は、「地域社会資本」に関わる問いです。
これには2つの意味があるのではないかと思います。
1つは、一緒に仕事をする会社の同僚や仲間。
そしてもう1つは、価値を提供する相手(お客さん)。

自分が選んだ仲間と、自分が選んだお客さんのために仕事をすること。
これは仕事のモチベーションとパフォーマンスに大きな影響をもたらします。

②どこでするか?

「どこでするか?」は、「地域環境資本」に関わる問いです。
好きな仲間やお客さんがいる地域や、自分が好きなものが周りにある環境は仕事だけでなく、生活全体の満足感を向上させてくれます。

自分の好きな場所にいることができれば、より幸せになるという考えのもと、面白法人カヤックでは、鎌倉在住の社員に対して「鎌倉手当」なるものを支給しているんだそうです。
おもしろいですね!(面白法人だけに)

③何をするか?

そして当然ながら、ビジネスである以上、「儲かること」を考えないわけにはいきません。
「何をするか」は「儲かること」であり、会社としては大前提になる問いでしょう。
そしてこの問いは、地域経済資本に関わるものです。

ただし、社員の幸福度が下がってしまうと、「何をするか」のパフォーマンスは下がってしまいますので、やはりここでも経済的利益だけでなく、地域の社会資本と環境資本を合わせて考える必要があると述べられています。

地域コミュニティが「幸せ」をつくる

地域資本主義において重要なことは、3つの地域資本を高めることが、おもしろくて持続的な地域をつくることだけにとどまらず、その地域で生きる人の幸せ度を高めることにもつながるということです。

柳澤さんは、「幸福学」で有名な前野隆司さんの言葉を引き合いに出しつつ。

これからの生き方のスタンダードとして、会社や家庭はもちろん、地域をはじめとするゆるやかなコミュニティに多く属していることが大事になる

と述べています。
そして、

経営者や社員が地域活動に参加するようになると、住むまちがジブンゴト化され、その会社が地域に根を張り始める

といいます。
企業がまちに定着して、そういう企業が増えれば結果的に地域で働く人が増え、人のつながりが増え、経済も元気になるというわけですね。

こうした地域では、働くと暮らすが非常に密接に関わっていきます。
そのことで地域の課題がまさにジブンゴトとして感じられるようになり、なんとか地域を良くしていこうという気持ちだったり、同じ気持ちを持つ仲間やコミュニティが生まれてくるのだと思います。

また、地域の課題は何も一つに限ったことではなく、一人ひとりの動機があっていい。
そうしたいろんな課題をジブンゴトとしてとらえている人やコミュニティが多ければ多いほど、解決できる課題は多くなっていきます。

そうしてジブンゴトとして熱量を持って地域に関わってくれる人が多ければ多いほど、多様であれば多様であるほど、地域も多様になり、豊かになっていくのではないでしょうか。

それがひいては、個人の幸せ、その総体としての地域の幸せをつくることにつながっていくのだと思いました。