ストーリーとは何か?
今回ご紹介するのは楠木建さんの『ストーリーとしての競争戦略』です。
かなりボリュームのある本でしたが、この本の本題である「ストーリー」の話と「ニッチという戦略」について書かれた部分が非常に興味深かったので、今回はこちらの2点についてご紹介したいと思います。
まず「ストーリーとは何か?」についてです。
本書では次のように述べられています。
戦略とは、必要に迫られて、難しい顔をしながら仕方なくつくらされるものではなく、誰かに話したくてたまらなくなるような、面白いストーリーであるべきです。
戦略ストーリーというのは、きわめて主体的な意志を問うものだということです。言い換えれば、戦略ストーリーは、前提条件を正確に入力すれば自動的に正解が出てくるような環境決定的なものではないということです。
現代は社会や環境の変化が非常に早くて複雑であることからVUCAの時代であるということがいわれています。
そのような時代では「これが正解」ということを見つけるのは非常に難しいですし、そもそも正解があるかどうかもわからない時代になってきているのではないかと思います。
じゃあどうすればいいかというと、社会や誰かに決めてもらうのを待つということではなくて、自分で考える、自分で決めて行動するということが大切ではないかと私は考えています。
そのときに自分の想いや意志を明確に示すことが戦略になるということです。
将来はしょせん不確実だけれども、われわれはこの道筋で進んでいこうという明確な意志、これが戦略ストーリーです。
そのようにして自分が「こうしたい」と思ってつくったおもしろいストーリーというのは、もちろん自分自身がワクワクして行動するモチベーションになりますし、それを誰かに話すことで周りの人に「おもしろい」と思ってもらえたり、応援してもらえたりすることもあろうかと思います。
ストーリーがおもしろいと、自分だけでなく、周りの人も巻き込みやすいということですね。
そしてこんなことも書かれていました。
戦略とは瞬間風速的に出る利益ではなくて、持続的な利益を生み出すための基本方策です。
戦略、そしてストーリーの意義はここにあることが分かりますね。
ニッチという戦略
もう一つ私がおもしろいと思ったのは、「ニッチ」という戦略について書かれた部分でした。
ニッチというのは「隙間」を意味する言葉で、ビジネスにおいては大企業が進出していないような小さな市場だったり、まだビジネスの対象にされていないような分野のことを指す言葉です。
本書ではフェラーリを事例に、ニッチについてこんなことが書かれていました。
ニッチ企業が利益を獲得できる論理は無競争にしかありえません。無競争状態を維持することが戦略のカギになります。そのために何ができるかといえば、要するに「売れるだけ売らない」ということです。売れそうになっても、我慢して売らない。積極的に注文を断る。絶対に成長をめざさない。
この「『売れるだけ売らない』。売れそうになっても、我慢して売らない。積極的に注文を断る。絶対に成長をめざさない」というのは非常におもしろいと思いました。
フェラーリでは「需要よりも1台少ない数をつくる」という絶対の社訓があるそうです。
積極的に成長を目指さないという考え方は、まさに弱者の戦略に共通する部分だと思います。
成長を目指してしまうとそこに競争が生まれやすくなりますので、「小さくはじめて、大きくせずに、長く続ける」ことは私が目指しているところですし、私が講師を務めている比企起業大学の教えてでもあります。
持続的な利益を目指すために大きくしないというのは、まさに戦略であるということが確認できました。
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ということで今回は『ストーリーとしての競争戦略』という本を取り上げました。
興味を持っていただけましたらご覧いただけますと幸いです!
以下、参考として本書で気になった箇所をまとメモとして公開しています。
(「⇒」は個人的な意見、感想メモです。)
また、忙しくて本を読む暇がない、ここに書かれていることを何度も読み返したいという方に向けて、音声配信アプリstand.fmのチャンネル「地域でしごとをつくるラボ」でも『ストーリーとしての競争戦略』のご紹介をしています。
よろしければこちらも合わせて活用してみてください。
stand.fm「地域でしごとをつくるラボ」での本書のご紹介はこちら。
まとメモ
・優れた戦略とは思わず人に話したくなるような面白いストーリーである
・戦略とは、必要に迫られて、難しい顔をしながら仕方なくつくらされるものではなく、誰かに話したくてたまらなくなるような、面白いストーリーであるべき
第1章 戦略は「ストーリー」
・「論理」が重要
⇒ 「面白い」と感じるストーリーをつくるためには、戦略を支える論理をないがしろにしてはいけない
⇒ 「ここから先は理屈じゃない」と判断するためには論理が必要
・戦略の本質は「違いをつくって、つなげる」こと
・ストーリーとしての競争戦略とは、「勝負を決定的に左右するのは戦略の流れと動きである」という思考様式
・戦略の本質は「シンセシス(綜合)」であり、個別の要素はアクションリストではない
⇒ 個別の要素はあくまでストーリーに紐づくストーリーのイチ要素になっている必要がある
・自分の仕事がストーリーの中でどこを担当しており、他の人々の仕事とどのようにかみ合って、成果とどのようにつながっているのか、そうしたストーリー全体についての実感がなければ、戦略の実行にコミットできない
⇒ 地方自治体でいえば、最上位の戦略は総合振興計画。個々の事業を遂行する上で、総合振興計画との関係を常に意識することが、事業へのコミットメント、ひいては成果につながる
・ストーリーの面白さは、戦略の実行にかかわる社内の人々を突き動かす最上のエンジンになる
⇒ 誰かに話したくなる面白いストーリーであるほど、社外の人も乗ってきやすくなる
・戦略ストーリーというのは、きわめて主体的な意志を問うものである
→ 前提条件を正確に入力すれば自動的に正解が出てくるような環境決定的なものではない
・将来はしょせん不確実だけれども、われわれはこの道筋で進んでいこうという明確な意志が戦略ストーリー
・ストーリーの共有は勝負を総力戦に持ち込むための条件として大切。ストーリーを全員で共有していれば、自分の一挙手一投足が戦略の成否にどのようにかかわっているのか、一人ひとりが理解したうえで日々の仕事に取り組める
→ 戦略がどこか上の方で漂っている「お題目」ではなく、「自分の問題」になる
・まだ誰も見たことがない、見えないものを見せてくれる、それが優れた戦略。そのためにはストーリーを描くしかない。戦略にとって大切なのは、「見える化」よりも「話せる化」。戦略を物語として物語る。ここにリーダーの本質的な役割がある
→ 日々事実を積み上げていくオペレーションにとっては見える化は武器になるが、将来の戦略構想ではあまり役に立たない
・優れた戦略思考を身につけるために最も大切なことは戦略をつくるという仕事を面白いと思えるかどうか
第2章 競争戦略の基本論理
・戦略とは利益、しかも瞬間風速的に出る利益ではなくて、持続的な利益を生み出すための基本方策である
第3章 静止画から動画へ
・どんな戦略ストーリーでもエンディングは「持続的な利益創出」というハッピーエンドは決まっている
→ 問題になるのは、「めでたし、めでたし・・・」の直前の場面、「利益が創出される最終的な論理」
・最も根本的な利益(P)の定義は、WTP-C=P
→ WTPとは顧客が支払いたいと思う水準、Cはコスト
→ 利益創出の最終的な理屈は、競合よりも顧客が価値を認める製品やサービスを提供できるか、あるいは競合よりも低いコストで提供できるかのいずれかになる
・ニッチ企業が利益を獲得できる論理は無競争にしかありえない。無競争状態を維持することが戦略のカギになる
→ 「売れるだけ売らない」。売れそうになっても、我慢して売らない。積極的に注文を断る。絶対に成長をめざさない
→ フェラーリは需要よりも1台少ない数をつくるという絶対の社訓がある
⇒ 小さな会社(弱者)の戦略に似ている。成長を目指してしまうとそこに競争が生まれやすくなる。「小さくはじめて、大きくせずに、長く続ける」ことを目指す
・戦略ストーリーは特定時点で完結する意思決定やデザインの問題ではない。日々の経営の仕事の中で遭遇するさまざまな事象をストーリーの視点から考え、ストーリーに取り込み、ストーリーへと仕立ててく「ストーリー化」のプロセスに、経営者なり戦略家の仕事の本領がある
・ストーリーの一貫性の正体は、「何を」「いつ」「どのように」やるのかということよりも、「なぜ」打ち手が縦横につながるのかという論理にある
第4章 始まりはコンセプト
・筋の良い戦略ストーリーを構築するためには、その起点として本質的な顧客価値を独自の視点でえぐり出すようなコンセプトが不可欠である
・コンセプトは最終的には短い言葉として表現される。一言でいってそのビジネスが本当のところ何であり、何ではなのかを凝縮して表出する言葉
・コンセプトはストーリーの起点であると同時に、顧客への提供価値という終点でもある
→ それを耳にすると、われわれは本当のところ誰に何を売っているのか、どのような顧客がなぜどういうふうに喜ぶのか、われわれは何のために事業をしているのか、というイメージが鮮明に浮かび上がってくる言葉でなくてはならない
・優れたコンセプトを構築するには、常に「誰に」と「何を」の組合せを考えることが大切。「誰に」と「何を」を表裏一体で考えることによって「なぜ」が初めて姿を現す
・ユニークなコンセプトの定義は、戦略ストーリーの出だしから他社との「違い」を約束する
・「すべてはコンセプトから」=「すべてはコンセプトのために」
→ ストーリーに含まれるあらゆる構成要素が、コンセプトの実現に向かっていなければならない
・全員に愛される必要はない。この覚悟がコンセプトを考えるうえでの大原則。全員に愛されなくてもかまわないということはビジネスの特権
・コンセプトは人間の本性を捉えるものでなくてはならない
→ できるだけ賞味期限の長いストーリーをつくるためにも、人間の変わらない本性を捉えたコンセプトが大切
→ その製品やサービスを本当に必要とするのは誰か、どのように利用し、なぜ喜び、なぜ満足を感じるのか、という顧客価値の細部についてのリアリティを突き詰めることが何よりも大切
→ 一番リアリティのある「なぜ」は自分自身の生活や仕事の中にある。自分自身ほどリアリティを持って理解できる「顧客」は他にいない
第5章 「キラーパス」を組み込む
・「戦略ストーリーの一貫性の基盤となり、持続的な競争優位の源泉となる中核的な構成要素」がクリティカル・コアの定義
→ クリティカル・コアの2つの条件
①他のさまざまな構成要素と同時に多くのつながりを持っている
②一見して非合理に見える
・戦略が合理的な要素ばかりで出来上がっていれば、誰もが同じようなことを考えるので、独創できない。「バカな」と思わせる非合理の要素がありながらも、成功してみると人々が「なるほど」とうなずく、これが優れた戦略の要諦である
・「先見の明」という論理に寄りかかってしまうと、本当の意味で独自の戦略ストーリーは出てこない。機会は外在的な環境にではなく、自らの戦略ストーリーの中にある
第6章 戦略ストーリーを読解する
・外的な成長機会は競合他社にも同じように見えている。単純な先陣争いになってしまう。外的機会が「魅力的」であるほど競争も激しくなる
・戦略とは将来の世の中や環境が「こうなるだろう」(だからそれに適応しよう)という予測ではない。自分たちが世の中を「こうしよう」という主体的な意図の表明である
第7章 戦略ストーリーの「骨法10カ条」
①エンディングから考える
・戦略ストーリーの優劣の基準は「一貫性」にある
・コンセプトは判断に迷ったり、行き詰ったときに、常に立ち戻ることができる何か
②「普通の人々」の本性を直視する
・普通の人々が確かに必要とすること、欲しがるものを価値の中心に据えるべき
・「言われたら確実にそそられるけれども、言われるまでは誰も気づいていない」が最高のコンセプト
③悲観主義で論理を詰める
④物事が起こる順序にこだわる
⑤過去から未来を構想する
⑥失敗を避けようとしない
⑦「賢者の盲点」を衝く
⑧競合他社に対してオープンに構える
⑨抽象化で本質をつかむ
⑩思わず人に話したくなる話をする
・戦略は「嫌々考える」ものではなく、まずは自分自身が面白くて仕方がないのが絶対条件
・自分で面白くて仕方がないような戦略ストーリーは伝えるのが苦にならない。何度でも自然と人に伝え、共有したくなる
・戦略ストーリーにとって一番大切なことはストーリーの根底に抜き差しならない切実なことがあること
→ 「自分以外の誰かのためになる」こと。直接的には顧客への価値の提供でも、せんじ詰めればその向こうにはもっと大きな社会に対する「構え」なり「志」のようなものがある