持続可能な地域とは

私は「地域でしごとをつくる」、あるいは「地域でしごとをつくる人をつくる」ことに取り組んでいますが、そのときに必然的に関わってくるのが「まちづくり」とか「地域づくり」です。

「地域でしごとをつくる」ためには、その地域が存在し続けることが大前提になります。

そこで今回は、「持続可能な地域」に焦点を当てて、これをテーマとする本をご紹介します。

取り上げるのは、そのまんまのタイトルで『持続可能な地域のつくり方』です。

持続可能な地域をつくるためには、まず「持続可能な地域とは何か」を明らかにする必要があります。

本書では、本を開いた扉部分に、持続可能な地域とは「人と経済の豊かな生態系」が息づいた地域であるとされ、その持続可能な地域には、4つの豊かな生態環境があることが示されています。

4つの生態環境とは、

  • 土、つながり協働し高め合う「地域コミュニティ」
  • 陽、道を照らしみんなを導く「未来ビジョン」
  • 風、一人ひとりの生きがいを創る「チャレンジ」
  • 水、未来を切り拓く力を育む「次世代教育」

のことです。

こちらの記事では、本書の冒頭にあるこれらの記述を足掛かりとして、「持続可能な地域」とは何か、「持続可能な地域」であるために必要な要素とは何かということについて、さらに深く読み解いていくこととします。

「持続可能な地域」とは

筆者は、地域、そして「持続可能な地域」とは、以下のようなものであると述べています。

・地域とは動的平衡状態にある1つの生命体であると同時に、無数の生命体が集まり、つながり、循環している生態系である

・地域を舞台にした人間の生活や経済活動も、住民、事業者、役場職員、環境客などの人間、企業・組合・行政機関などの組織、気候・地形・動植物などの自然環境の相互作用による生態系、エコシステムの基に成り立っている

・森・海・里山などの自然の恵を活かした仕事をし、住民同士が繋がり助けあう。豊かなコミュニティ環境のもとで次の世代が確実に育つ。地域を離れる人もいれば、新たにやってくる移住者もいて、新陳代謝が活発である。・・・時代環境の変化に応じて、要素同士の相互作用により、失った部分は補い、傷ついた部分は修復し、新しい機能を加え、進化を遂げていく。持続可能な地域とは、そんな「生きているシステム」が存在する地域なのだ

つまり「地域」とは生態系であり、「持続可能な地域」とは身体代謝が活発に行われ、好循環が生まれ・続いている地域であるということがいえます。

「持続可能な地域」に必要な4つの生態環境とは

そのような「持続可能な地域」のイメージを前提として、現在、深刻な課題を抱えている地域を見たとき、次の5つの負のループが見られることが指摘されています。

①経済衰退
②生活困難
③孤立無援化
④教育水準低下
⑤環境破壊

これらに大きく関わり、地域課題の深刻化や悪化を引き起こしているポイントが、「コニティの弱体化」と「若者の流出・地場産業の衰退」だといいます。

ではこうした負のスパイラルを解消し、「持続可能な地域」を実現するためには、地域の独自の生態系を再生するためにはどうすればいいのか。

それには以下の4つの生態環境が必要だと筆者は述べています。
それが冒頭に引用した4つの要素です。

①地域内の様々な立場、職業、年齢の住民・事業者・行政がつながり、対話し、協働し、互いの力を高め合う「コミュニティ」
②地域で暮らす人々みんなが生き生きと取り組む「チャレンジ」
③未来の地域経済の担い手であり、地域コミュニティの中心的存在を育てる「次世代教育」
④希望に満ちた地域の未来の姿を描き、住民の地域合いを育み、住民同士をつなぎ、新たなチャレンジを促す「未来ビジョン」

以下、それぞれの生態環境について掘り下げていきます。

地域コミュニティ

・人と人がつながり、地域に強いコミュニティが存在することで、次の5つの効果があるとの研究がある
 ①幸福度を高める
   ・友人が多いほど感じる幸福度のポイントが高い
   ・他人との社会的ネットワークを通じて幸福が人から人へ広がる
 ②生命力を高める
   ・コミュニティへの参加は健康の維持につながる
   ・つながりを失うと、孤独は精神的にも身体的にも悪影響を与える
 ③生産性・創造性を高める
 ④利他性を高める
   ・チームで行動すると、人は利他的な人格が高まる
   ・利他的な精神は伝染する
 ⑤経済的利益を生む

・行動の質を変えるためには、考え方・意欲などの「思考の質」を、思考の質を変えるには、組織内の個人同士の「関係の質」を変える必要がある(D・キム)

・住民同士の「関係の質」が高まると、人は生きがいと幸せを感じ、生命力が高まる。多くの知識が共有され、多様な気づきをえる。その結果、仕事や家事、地域活動に取り組む考え方が変わり、「思考の質」が変わる。「思考の質」の変化により、「行動の質」が変わり、より生産的、創造的な活動ができ、地域や他人のためになる行動も増える。それは、住民の経済的な利益、仕事のやりがい、豊かな生活などの「成果の質」につながる。・・・この成功のサイクルが回ることが、つながり作りの最大の効能である
 ⇒ ここでは「数」については一切触れられていない。量的な変容よりも、「質」の変容が重要である

・今、地域に必要なのは、地縁型とテーマ型の2つが融合した、ある特定の地域課題解決のために集まるタスクフォース型コミュニティである。・・・地縁型のように地域に深くコミットするのだが、テーマ型のように出入りも比較的自由であり、義務的なものではない

未来ビジョン

・持続可能な地域を実現するために、ビジョンが果たす5つの大切な役割
 ①持続可能な未来への道しるべ
 ②現在思考から未来思考への転換
 ③住民のエネルギー源、行動の動機、地域合いの醸成
 ④チーム力を上げる絶好の機会
 ⑤地域外からの求心力を生む

・地域のビジョンは住民のためのものである。・・・誰かの思いを排除したり、犠牲にするような「選択」の必要はあまりない。みんなが特定の一つのことに「合意」する必要もない。みんなが「共感」できることを最優先にしたい

・ビジョンとは・・・みんなで目指す実現に困難を伴う高い目標を決めることではない。どちらの方面の山に向かうか、目的地を緩やかにみんなで決めることである。・・・同じ山をみんなで楽しむことだけが共有できていれば良い

チャレンジ

・地域から新たなチャレンジを生むために必要なもの、それが「熱=個人の思い」「仲間」の2つである

・チャレンジの風は個人の熱い思い無くしては起こらない。誰かに勧められるものでも、強制されるものでもない。個人の内面にある情熱、使命感、好奇心などに火がつくと熱が発生する

・熱を起こすためにも、その熱を持続させるためにも、アイデアを生み出し、実現するためにも必要なもの、それが仲間である
 ⇒ 比企起業大学ではまさにそれが起こっている!

・あなた自身が地域で発見したことと、あなた自身の思いと重なり、「自分が問い続けたい、熱を持って解決したいと強く願う課題」、それがイシューである

次世代教育

・SDGsとは、子どもたちの日常生活と未知なる大きな世界をつなぎ、将来進む道へと誘う17本の川である。川の先に広がる大きな海へ好奇心を抱き、挑戦する子どもたちをどれだけ生み出すことができるかで、地域の未来が決まる

・将来展望、自己肯定感、学習意欲の3つの間には一定の相関関係が見られる。学習意欲を高めるためには、自己を肯定し自分に自信を持つこと(自己肯定)、そして将来の夢を描き自分の未来に可能性を見出すこと(将来展望)が鍵を握っている

・身近な友人の数以上に、「大人」の存在が学習意欲を高めるカギを握っている
 → 急速に人口減少が進み、地場産業の衰退が進む地域では、進学、就職のタイミングで多くの若者が地域を離れる。進路を意識し始める中高生にとって、自分が進む道を示すロールモデルの役割を果たすお姉さんお兄さんの絶対数が少ない

・地域には、魅力的な仕事をしている人はたくさんいるのだが、コミュニティの弱体化で出会う機会が減っている。農家や職人が自分の仕事、地域の仕事を「儲からない仕事だから、やめておけ」と否定的な発言をすることも影響している

・将来の夢や学習意欲につながる「かっこいい大人」との出会いの格差が、子どもたちの学習意欲の格差につながっている

地域にある真の「豊かさ」とは

・仕事、地域活動、日常の生活の中で、互いに自分のできること(価値)をギブする。それに対して頂いた価値以上のものを返礼する。この不等価交換の繰り返しが、人と人との支え合う関係を作りあげる。これが可能なのは、貨幣経済だけに依存しない贈与・自給・共有経済が残る地域の特徴である
 ⇒ 『ゆっくり、いそげ』にある不等価交換

・ギブするためには、ギブできる価値あるものを持っていなければならない。都市で暮らし、組織に所属していると、自分自身の価値という感覚が薄くなる。肩書きや組織の力で貨幣を稼ぎ、貨幣による等価交換で必要な物品・サービスを手に入れる

・貨幣経済だけに100%依存するのではなく、自分が隣近所や地域社会に提供できる「価値」を磨き、価値をまず自ら「ギブ」し、関係性を築くことで得られる複数の経済を組み合わせて生きるのが地域での生活である

・「仕事そのものに喜びを感じないのであれば、その仕事は為す価値がない」(ウィリアム・モリス)

・自分が考え、形にしたものを、お客さまに提供して、「ありがとう」と言ってもらえる。その成果として収入が得られる、これこそ「自分の仕事」である。ワークライフバランスという言葉がある。公(仕事)と私(余暇)を切り離し、余暇の時間を大切にすることを推奨する考え方だが、私は賛同できない。働くことそのものに喜びを見いだせること、仕事を通じて、自分自身が生きている実感を得られていることが何よりも大切だ

・地域には、一人の人が色々な仕事をするのが当たり前だという感覚がまだまだある。地域で暮らしていると、この兼業感覚に加えて、前節で紹介した不等価交換の考え方により、本人が思ってもみない新しい仕事に出会える機会がある

・まずは「できること」をやってみる。その先に「やりたいこと」が見えてくる。また、やることを一つに絞ることもナンセンスだ。それが正しいかもわからない。自分の可能性を自ら狭めることになる。仕事の環境と求められるスキルが激変する今の時代は、一つのことだけを極めることは逆にリスクが高い。百姓的生活、自分で何から何までやるのが当たり前の地域での生活には、今までとは違う自分の「できること」にであるチャンスがあふれている

・地域には大都市で失われつつある、生きている「手こだえ」を感じられる機会があふれている。「手ごたえ」とは、人が自分以外の何かと相対し、働きかけ、結果として手に入れる反応のことを意味する。そして、今の時代に価値の高い、お金では買えないものの一つでもある

===

以上、今回は筧裕介さんの『持続可能な地域のつくり方』についてご紹介しました。
参考になりますと幸いです。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: 4178156_s.jpg

また、忙しくて本を読む暇がない、ここに書かれていることを何度も読み返したいという方に向けて、音声配信アプリstand.fmのチャンネル「地域でしごとをつくるラボ」でも本書『持続可能な地域のつくり方』のご紹介をしています。

よろしければこちらも合わせて活用してみてください。

stand.fm「地域でしごとをつくるラボ」でのご紹介はこちら