住むところを決めることは人生戦略である

住むところを決めることって、自分の人生の戦略なんです。

これは本書巻末の対談で、『ニュータイプの時代』の山口周さんが語っている言葉です。
本書の著者の柳澤さんの言葉ではないのですが、非常に重い言葉だと思いました。(柳澤さん、ごめんなさい・・・)
同時に、まちづくりに関わる者にとって、これからの時代に考えなくてはならない重要です。

柳澤さんは、面白法人カヤックの代表取締役であり、私の大好きな『鎌倉資本主義』の著者でもあるのですが、ここでは山口周さんの「人生戦略」という言葉をキーワードに、本書『リビング・シフト』を題材として、「住む場所」ということについて考えてみたいと思います。

さて、先ほども述べたように、人生戦略としての住む場所の選択というのは、これからのまちづくりにおいて欠かせない視点になると思います。
なぜなら、どこでも働ける時代には、住む場所へのこだわりを満たすことに興味が移っていくはずだからです。
住む地域は、「どこでもいい」ではなく、「ここがいい」と選ばれるようになる。
そのようにして選んだ地域での暮らしは、必然的に「暮らす」と「働く」が非常に密接な関係ができることになります。
すると、地域での出来事はまさに自分の人生を送る場所での出来事だから、決して他人事ではなく、ジブンゴトとして、まちをよりよくしたいという気持ちにつながるのではないでしょうか。

また、これまでは、本人はどこでも働けるけれど、子どもの教育のことを考えたとき、高校や大学がないという地域も多くあります。
そうした事情から、どうしても都市部、特に東京に興味が向き、世帯全体が移動していってしまうとう傾向がありました。
でも、2020年4月の新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言によって、今、急速に教育を巡る環境が変化してきています。
それは、学校の一斉休校下で、子どもたちの学びを止めないためのGIGAスクール構想の前倒しです。

GIGAスクール構想が実現して、1人1台のPCまたはタブレット端末が導入され、家庭での通信環境問題が解消されれば、従来の学科教育に関していえば、それこそどこに住んでいても全国どこでも同じ教育をうけることが可能になります。
極端にいうと、全国どこでも同じ教育が行われるとすると、そこから育つ子どもは、すべて同じ人格(スキル・能力)を目指すことになってしまい、そこからでは際立つ個性は育まれません。

そうなると、他との差別化、つまり個性というものは、地域または学校独自でどんな教育を行うのかということにかかってくるのではないかと私は考えています。
つまり、ICTを活用することで、従来の学科教育を効率的に行い、必要な授業数を圧縮してできた余白の時間で、それぞれの学校が、地域が、子どもたちにどのような教育環境を与えることができるかが、個性を育むカギになるということです。

もちろんGIGIGAスクール構想は緒に就いたばかりで、まだまだすべての学校で実現するには程遠い状態ですが、いずれはこの方向に向かうでしょう。
それが実現すれば、住む場所を選ぶということは、今や大人の働き方の問題だけではなく、子どもの教育も含めて、家族全員に関わるまさに「人生戦略」になっていくのではないかと思います。

やや教育の方に話がずれましたので「住む場所」ということに話を戻します。
人生戦略としての住む場所を選ぶとは、どこに住むか、どこで働くかを考えることだけではありません。
柳澤さんは、「誰と働くかが大事」ということを常々いっています。
私はそれに、誰と学ぶか、どこで学ぶか、誰と暮らすかという視点も追加したいと思います。

誰と学ぶか、どこで学ぶかは、地域にどのような学びの環境があるかということです。
これは学校での教育にとどまりません。
大人も子どもも含めて、社会全体でどのように学んでいくかということです。
誰と学ぶか、どこで学ぶかで学びの環境がまったく違ってきます。
これは自分の人生を通じて学びの環境をどうつくっていくかという問題といえるかもしれません。
学びの環境とは、自分がこの先、自分が望む人生を描き、実現するための礎になるものだと私は考えています。

誰と暮らすかということも、それに近いのですが、家族というだけでなく、地域でどのような人たちに囲まれているかということです。
このことは暮らす、働く、学ぶのすべてに関わってくる要素です。
周りにいる人によって、自分の考えや行動は大きく影響を受けます。
友人しかり、コミュニティしかり。
私も、起業家と日々接していますので、それが当たり前の感覚になりつつあります(笑)
どういう人が周りにいるかで暮らす場所を選ぶということは、自分がどんな生き方をしていきたいかを選ぶということにつながるのです。

今、世界中がインターネットでつながって、いつ・どこにいても、いろんな情報に触れられたり、働けたりするからこそ、自分の周りにあるリアルとしての住む場所や一緒に働いたり暮らしたりする人たちの存在感が逆に強まっているのではないかと思います。
周りの雰囲気になんとなく流されるのではなく、自分がなりたい将来像を主体的に考え、選び取っていく、そんな行動が必要になってきています。

これって、まさしく「人生戦略」ですよね。
私も、これからもっともっと学んでいきたいですし、学べるような環境、かつ仲間と学び合える環境をつくっていきたいと思います。

本書のまとメモ

(↓ まとメモはここから)

「⇒」は私の考え、感想

はじめに

・自分の価値観の合う場所で働いたり、住むことが依然よりずっと簡単になった。その結果、多くの人が「どこに住むか?」「どこで働くか?」にこだわった方が、実は人生は楽しいのではないか?と気づき始めた

東京vs地域 地方人気はなぜ生まれたのか

・「どこでも働ける」環境が整備されてくると、東京は、そのほかの地方都市と同じように「選択肢のひとつ」でしかなくなってくる。つまり、東京の絶対的な優位性というものが徐々に薄れて、みんなが好き勝手に自分の住みたい場所、働きたいところを選んで、ワークスタイルを組み立てるようになる

・多くの人が、従来の経済合理性では測れないものの価値を自分のモノサシで測り、自分の住みたい場所を選んで、移住している

・従来の資本に加えて、人と人とのつながりや、美しい自然や文化をも資本であると捉え、地域における資本を可視化して最大化していこうというのが、僕たちの提唱している「地域資本主義」の考え方です

 ⇒ 地域資本主義については、著者の『鎌倉資本主義』に詳しく、私のブログでも紹介している。(『鎌倉資本主義』から学ぶはこちら

・個人が自分のモノサシを持って、好きな場所に住み、働く時代には、そこそこ便利だけれど特徴や面白みのないまちは、それこそ「なにもない」まちになってしまう

・それぞれのまちには、本来、自分たちの資本がある。横並びになるのではなく、日本中のまちが自分たちの資本を最大化する。それは言い換えるなら、多様性のある社会ということになる
 ⇒ まちごとに突出したコンテンツを伸ばして、そのコンテンツが好きでたまらない人ばかりが集まったら、日本中が多様性あるものすごく面白いまちばかりになる

・移住してくるにしても、とどまり続けるにしても、自分の好きなまちを選んで住む。そこに主体的な選択があるからこそ、「このまちをよりよくしよう」という気持ちになり、結果として「まちをもっと好きになる」。そういうサイクルが生まれる

・「行政が何もやってくれない」「ここが不満だ」と言って、あちこち移り住んでいるだけだとしたら、なかなか満足できない。それよりも、いっそ自分が市長にでもなったつもりで、自分の住んでいる地域の課題を「自分ごと化」する方が、結果として満足度は高くなるはず

・才能の集まった場が生まれるための要件
①地域そのものが持つ力・・・歴史、文化の集積、まちそのものの美しさ
②ある程度の人的な流動性
 → もともと地域が持つ力があり、そこで生まれ育った人たちがそれを支えていて、よそから来た人たちを受け入れ、交流する中で、文化の坩堝のように、優れた才能を同時代に集中的に生み出す地域というものが出てくる

・機能を集約させつつも合理的にいきすぎず、さまざまな要素が坩堝のようになっている方が面白い。横並びになるのではなく、そういった都市としての機能を持ちながら、まちの個性を際立たせていく

移住2.0 多角化する地域と人の関係

・移住する人の属性
 ①移住しなければいけない理由のある人
 ②特定の地域に強い思い入れがある人
 ③いつかどこかに移住してみたいと考えている人

・リサーチという意味だけで名はなく、移住先に親しい人がいるというのは、それだけで心強いですし、移住後の生活を送るうえでも役立つ。ある地域に知っている人がいて、その場所のことを話してくれて、あわよくば「おいでよ」と言ってもらえたりする。
③の人たちにとって、移住先を決める一番大事なことは、そんな人と人とのつながりではないか

・これまで培ってきたコミュニティを「ポータブル」なものとして、移住先にも持っていく。そのうえで、移住先で新たなコミュニティをさらに育む。つまり、たくさんのコミュニティに所属することができる。そのことが、移住のハードルを下げる大きな要因になっている

リビング・シフトが変える「働き方」

・アイデアやイノベーションで勝負しようとするとき、これまでの工業化社会における生産性とは、まったく別の考え方に切り替える必要が出てくる。朝9時から夜遅くまで会社で仕事をしていたとしても、優れたアイデアが出なければ、何も生み出していないということになってしまう

・「移動距離とクリエイティビティは比例する」=きれいなものや珍しいものをたくさん見たり、体験の引き出しを増やしたり、それまでなかった視点を蓄積していくことが、クリエイティビティにつながる

・自社の課題を解決したり、おもしろいものをつくるときにも、社内だけではなく、社外のリソースを使った方がいいし、いろいろな人とコラボレーションできる組織の方が強い。企業の規模を図る指標として従業員数を開示しますが、これからは関係人口ならぬ関係社員という言葉が生まれるかもしれません

リビング・シフトを知れば未来の経済がわかる

「ヒューマン・オートノミー」=好きなときに、好きな場所で暮らし、働き、人生を楽しむという社会ビジョン

「未来のあたりまえ」を先取りする地域移住

・住むところを決めることって、自分の人生の戦略なんです。そういう意味でいうと、ものすごく競争率が高い東京から自分のポジションをいかにずらしていくかっていうのは、極めてあたりまえの発想。逆に、「みんなが住んでいるから」とか、そういう消極的な理由で東京に住むのは、企業戦略としても一番ダメなパターン(山口周)