地域の「活性化」とは?
今回取り上げる本は、木下斉さんの『まちづくり幻想』。
木下さんらしい「毒舌」が光ります。
ただし、ここでいう「毒」とは、地域でふんぞり返って何もしない、あるいは地域を何とかしたいという志を持った人による新しい取り組みを潰そうとしてきた「有力者」にとっての毒なのかもしれません。
実際に地域で活動している私たちにとっては、至極当然の内容で、「我が意を得たり!」という感じでした。
都市部でどんなことが起きようと、自分たちのまちを継続的な積み上げで、普段から外の人を受け入れ、自分たちの産業を盛り上げていっている地域にしかチャンスは訪れない
本当にこの一文に尽きますね!
ただ、補助金の活用に関しては持論がありますが、それはまた別の機会として、ここでは本書を題材にして、以下の つの内容について考えてみたいと思います。
・まちづくりの成功とは「人口増」か
・地域で活動するためのチームの考え方
・関係人口の捉え方
・先を行く地域は「未来の話」をする
順に述べていきましょう。
①まちづくりの成功とは「人口増」か
このことについては、私が学んだ比企起業塾の恩師であるときがわカンパニーの関根さんとの共著『地域でしごと まちづくり試論』の中で論じたことでもあります。
果たして、まちづくりの成功とは「人口が増えること」なのでしょうか。
結論から言えば、私の考えは「否」です。
木下さんも、次のように述べています。
地方創生は「人口減少」を出発点にした時点で終わっていた
「人口さえ増えれば地域が活性化する」という考え方自体が幻想だということですね。
私は、人口の増加や減少は、単なる結果あるいはその時点における現象でしかないと思っています。
そのため、人口を増やすこと自体を目的にして何かをやろうとするのは違和感があります。
たとえば、移住者を増やそうとして補助金を出している自治体もありますが、極端にいえば、「お金が欲しくてその地域に移住する人」を集めてしまいかねません。
また、人口の奪い合い、つまりゼロサムゲームになってしまうのも問題です。
人口が増えた地域は良いけど、人口が減った地域は悪くなるという二元論になってしまいます。
そうではなく、それぞれの個人にとって、あるいは家族にとって、望む人生やライフスタイルを叶えられるのはどの地域なのか、今はそれが選択しやすい時代になっているのだと思います。
そのときに暮らしやすい、働きやすい、何かを始めやすいような地域であることが重要なのではないかと思います。
これはインフラなどのハードに限らず、そこに住む人たちの空気感も含めてのことです。
そう考えると、その地域のことが好きで、何かをやろうとしたときにやりやすかったり、応援してもらえたりして、それぞれの幸せを追求できるまちが、「活性化」したまちといえるのではないかと考えています。
②地域で活動するためのチームの考え方
今、まさに仲間とチームをつくって新しいことにチャレンジしようとしています。
本書に書いてあることは非常に納得感がありましたので、大いに参考にしたいところです。
集団圧力による幻想問題には、「強烈な少人数チーム」を作れるかどうかが鍵
チームに欲しい人材については、以下の4種類の人材が挙げられています。
・事業に対して営業力のある人
・地域での信頼を集めている人
・細かなワークでチームを支えられる人
・事業に必要な専門性を持っている人
これは必ずしも4人が必要ということではなく、役割を示したものととらえています。
自分に置き換えたときに思い浮かぶ人がいましたので、そういうことなんだろうと思います。
その中で、じゃあ私はどんな役割を果たすかということが重要です。
本書でも次のように述べられています。
「みんな」なんて抽象的な主語はいりません。まずは「私」が何をするか
どうしても複数で動くと他人任せになったり、責任の所在があいまいになってしまったりしますので、あくまでジブンゴトとして事業に取り組むことを改めて肝に銘じないといけませんね。
また、これからやる事業に関しては、チームが主体的に動くものである必要もあります。
・地域事業の要は安易に思考を放棄せずに、自分たちでリスクをとって実践するチーム
チームだからといって固定的にメンバーを囲い込むということではなく、それぞれが単独の個として柔軟に動きつつ、チーム外のプレーヤーとも連携しながら共創関係をつくっていけたらと思います。
③関係人口の捉え方
最近、「関係人口」という言葉が乱用されているような気がします。
確かに、どんなに弱い関係でも包括的に捉えられるという意味では裾野が広くて使いやすいのですが、もう少し解像度は上げていきたいところです。
前提としては、「その地域に住んではいないけれど、その地域のことが好きで、地域のために何かしたいと考えている人、または実践している人」が関係人口の定義であると私は捉えています。
そのとき、関係の強さによって、関係人口にも階層があると考えています。
(このことに関しては、恩師である関根さんや林さんと議論したことがありました)
・そのとき限りの一般参加者の状態(交流人口)
・リピートするファン(スーパー交流人口)
・地域や地域の人を積極的に応援するサポーター(関係人口)
・地域の人と一緒に連携して事業活動を行うパートナー(スーパー関係人口)
ざっくりいうとこんな感じでしょうか。
本書では以下のように述べられている部分がこれに当たるかと思います。
ファンが増加することはとても大切です。ただそれは、単に「ファンです」という人が増加するのではなく、より具体的なアクションがセットである必要があります
単にファンが増えるだけではオーバーツーリズムのような別の問題の引き金になることも考えられますので、小さい地域ほどこうしたパートナーといえるスーパー関係人口をつくることが、地域の活性化には必要なのではないかと思います。
④先を行く地域は「未来の話」をする
先を行く地域と、そうでない地域の圧倒的な違いとして、先を行く地域の人は圧倒的に「未来の話」をし、幻想を引きずり、停滞する地域の人は「昔話」を語るという部分を読んだとき、なるほど!と思わず唸ってしまいました。
確かにそのとおりです。
当たり前のことかもしれませんが、未来を創っていくということが地域にとって一番大切なことです。
言い換えれば、「これからどんな地域にしていくか、していきたいのか」ということです。
その場限りの賑やかさではなく、未来に続けていける地域での生活、仕事、幸せといったことを考えなくてはいけないのだと改めて強く思いました。
以上、『まちづくり幻想』から
・まちづくりの成功とは「人口増」か
・地域で活動するためのチームの考え方
・関係人口の捉え方
・先を行く地域は「未来の話」をする
の4つの内容について考えてみました。
学び多き一冊でした。
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以下は本書のまとメモとなります。
気になった箇所を引用、私個人の感想や考えは「⇒」にて示しています。
本書のまとメモ
はじめに
・なぜ国の莫大な財源が投入されたにもかかわらず、地方はますます衰退してしまうのか。なぜ結果が出ないのか。
→ それは地域の多くの人たちが「まちづくり幻想」に囚われているから
・「まちづくり幻想」とは、皆が常識だと思いこんでいるものが、実は現実とは異なり、それを信じ、共有してしまうが故に地域の衰退を加速させるという本質的な問題
・結局のところ、根本的なところでの考え方を常に点検しつつ、一つ一つの取り組みを地道に積み上げていくというやり方が結果として成功への近道になる
1章 「コロナ禍で訪れる地方の時代」という幻想
・地域産業で大切なのは、一部の強い企業に頼るのではなく、重層的な集積です。それは中長期にわたって、地元資本で続けられていくことが大切なのです
・(熊本県のシークルーズの事例)
適正な価格で、適正なお客様を集めることで、悪質な客を寄せ付けないため従業員の定着も高く、採用ともなると都内を始め地域の有名大学から男女ともに就職希望者が集まります
・(バスク自治州)
モンドラゴンなどの労働者協同組合は、消費生活協同組合とのハイブリッド型で、ショッピングモールやコンビニのようなデリを展開するなど地域内消費を支えています。つまり地元の人々が資金を出したモールで地元の人たちが買い物をしているのです。結果として、地元消費によって生まれる利益もまた、地元の人たちに戻っていくのです
・都市部でどんなことが起きようと、自分たちのまちを継続的な積み上げで、普段から外の人を受け入れ、自分たちの産業を盛り上げていっている地域にしかチャンスは訪れない
・地方創生は「人口減少」を出発点にした時点で終わっていた
→ そもそも「人口さえ増えれば地域が活性化する」という考え方自体が幻想
・(北海道江丹別)
80人の集落が少しずつ人口増をしていますが、それはあくまで結果論。土地の力を使い、その地域でできる独自の産業と生活をつくり上げたからこそ、人が集まるようになっているのです。そしてそれは80人や100人程度ではありますが、皆が幸せに生活しているのです
・生産地はどうしても市場と向き合う機会に乏しい場合が多く、価格設定、商品性評価という点において不利な立場にあります。だからこそ産直をやるとしても、自分たちの尺度で過剰に安く設定してしまったりするわけです。
・・・担い手もいなくなるくらいに安くたくさんを徹底しすぎてしまったので、適切な値上げに向けてギアチェンジできるかどうかが、地域の存続条件となってきています
2章 えらい人が気づけない、大いなる勘違い
・自治体の意思決定者は、予算獲得の前に自分たちの地域がどのようなシナリオで再生するか、その戦略をつくる時間と人材を優先しなくてはなりません。そのことで適切な予算活用と事業の選択が可能になるのです
・「若いんだから苦労するのが当たり前だ」なんて考え方の社長がやり方を変えない限り、そこに人は集まりません。地域活性化の分野でいえば、地域における仕事は「誰もやりたくない」からこそ人手不足が起きているという側面があります。むしろ会社側が働く人たちに適応していく必要があるのです
・トップに何を語れというのか、と言えば、夢です。
この地域で自分たちは何をしようとして、地域をどうしたいと思っているのか。それから話を始めるべきなのです。明るく未来に向けて語れる人が地域のバトンを握り、動くことが求められているのです
3章 「地域の人間関係」という泥沼
・集団圧力による幻想問題には、「強烈な少人数チーム」を作れるかどうかが鍵
・チームに欲しい人
事業に対して営業力のある人
地域での信頼を集めている人
細かなワークでチームを支えられる人
事業に必要な専門性を持っている人
・地域事業の要は安易に思考を放棄せずに、自分たちでリスクをとって実践するチーム
・「みんな」なんて抽象的な主語はいりません。まずは「私」が何をするか
・事業においては信用、経験、投資という3つの軸が必要になります。その点では、よそ者がきたところで、できることには限界があります
・地元の人々が「挑戦者・成功者を目の前にしたときにとるべき行動」と「挑戦者・成功者側が意識すべきこと」
①応援は「具体的行動」で示そう
・「応援する」=売り上げに貢献すること
②「様子見」は、潰しに加担しているのと同じ
③7~8人から反対されるうちにやるのが「仕事」
④他のライバルを潰すのではなく、育てる
・ジメジメと潰し合いをする地域よりも、当然ながらネアカで笑って飲んで楽しくやっている地域のほうに人は集まり、挑戦は成果を生み出し、その成果が潰されることなく、むしろ地域全体へと波及していくことも可能になる
4章 幻想が招く「よそ者」頼みの失敗
・よそ者としては、やはり最低限、域外収支としてマイナスを作りださないように、域外への輸出を地域の商品サービス分野で実現しつつ、その範囲で自分たちの収入を作り出す努力を続ける必要があります
・ファンが増加することはとても大切です。ただそれは、単に「ファンです」という人が増加するのではなく、より具体的なアクションがセットである必要があります
⇒ ファンではなく、積極的に関わるサポーター、パートナーが重要
単なる交流人口ではなく、具体的な関係で地域や地域の人と結ばれた関係人口
・魅力的なまちというのは、地元の魅力のゴリ押しではなく、地元の人たちが自然体でプライドをもっていることが重要になります。自分たちの仕事に価値を見出し、それをもって地域を支える産業にしている人たちの話には魅力があります
・地域の外注主義とそこに群がるコンサルの構図が生み出す悪循環が、地域から3つの能力を奪う
①執行能力がなくなり、自分たちで何もできなくなる
②判断能力がなくなる
③経済的自立能力が削がれ、カネの切れ目が縁の切れ目となる
・初めての事業の4つの原則
①負債を伴う設備投資がないこと
②在庫がないこと
③粗利率が高いこと(8割程度)
④営業ルートが明確なこと
・新たなプロジェクトを立ち上げるときは常に「逆算開発」「先回り営業」が必須です。まず営業し、顧客が見えている状態で事業を始める。つまり、投資する前に営業しようということです
5章 まちづくり幻想を振り払え!
・先を行く地域と、そうでない地域の圧倒的な違い
先を行く地域の人は圧倒的に「未来の話」をする
幻想を引きずり、停滞する地域の人は「昔話」を語る
・地域の未来は、最後は「個」としての行動の蓄積によって形成されます
●幻想を振り払うための12アクション
【官×意思決定者が「役所」ですべきこと、「地域」ですべきこと】
①外注よりも職員育成
②地域に向けても教育投資が必要
・健全な意思決定を地域全体で民主的に行うためには、最低限の教育レベルが担保されることは不可欠です
③役所ももらうだけでなく、稼ぐ仕掛けと新たな目的を作る
【官×組織集団「自分の顔を持ち、組織の仕事につなげる」】
④役所の外に出て、自分の顔を持とう
・役所内で完結する仕事をしている人は、自費で地元の町や他のまちに出ていって人間関係を構築し、地域の有り様を体感的に理解できていません
・本気で動くと、見えざる資産がどんどん積み上がり、企画する時に「あなたがやるなら協力するよ」という人が現れる。こうなると、予算で人を集めるものとは段違いによいプロジェクトになっていきます
⑤役所内の「仕事」に外の力を使おう
・小さな取り組みは大切ですし、個人として顔を持つことも重要ですが、これらはあくまで手段です。それらを役所内の仕事にどれだけつなげていけるか、が大切
【民間×意思決定層「自分が柵を断ち切る勇気」と「多様寛容な仕事作り」】
⑥既存組織で無理ならば、新たな組織を作るべし
⑦地域企業のトップが逃げずに地域の未来を作ろう
・地方における基盤の一つは民間企業の存在。地域における民間企業経営者だからこそできる地域活性化は、事業を通じた貢献なのです
・若者や女性をこき使う精神から脱却し、魅力的な「働きたい」と思える職場つくりが地域の成長につながっているのです。経営者たちがまちの未来を諦めず、今の若者たちが働きたい仕事を作ること、職場環境を変えることもまた、自治体による移住・定住促進の政策だけでは無理なのです
【民間×集団「地元消費と投資、小さな一歩がまちを変える】
⑧バイローカルとインベストローカルを徹底しよう
・アップデートされていくバイローカルなお店のマップは、リアルなお店に行かないと手に入らないのです。ネット時代全盛期だからこそ、ローカルはローカルの人たちだけで楽しめる工夫が光ります。このような仕掛けは地元消費を拡大し、地域内経済も強くしていくことになっています
⑨一住民が主体的にアクションを起こすと地域は変わる
・支援があってから始めるのではなく、まずは始めてしまい、サポートがついてくる方式。仕掛ける前にあれこれと考えるのではなく、身軽なアクションが次のステップを作り出してくれるのです
【外の人 地元ではない強みとスキルを生かし、リスクを共有しよう】
⑩リスクを共有し、地元ではないからこそのポジションを持つ
・外の人として、地域プロジェクトに対して一定のリスクを共有すること
⑪場所を問わない手に職をつけよう
⑫先駆者のいる地域にまずは関わろう
・まちを変えるのは常に「百人の合意より、一人の覚悟」
・責任回避の意思決定をしない、集団迎合をしない
おわりに
・大事なことは面倒なこと
⇒ 面倒なことに遭遇したときに手を抜いたり、都合の悪いことに目を背けてしまっては「大事なこと」を失う
・楽なことというのは大して残りません。次から次へとやる人がいるからです。誰もやらない面倒なことをやり遂げると、それは残るものになります
・自分で挑戦することと共に、その上で仲間が増えていくこともまた必要です。仲間とは別に意識を全てともにし、常に仕事をする必要はないのです。普段はそれぞれが然るべき事と向き合い、語り合うことがたまにあれば、気づけば各地域で様々な動きが起こり、結果として地域の、日本の、世界の未来ができる