今回は、『新しい公共を担う人びと』(奥野信宏、栗田卓也 著)を取り上げます。
個人事業主として、また一般社団法人ときがわ社中として、地域でしごとづくりを行うことの意義について考える上で、「新しい公共」という考え方は非常に勉強になりました。
以下、本書で気になる個所をまとメモとして書き出していきます。
まとメモ
プロローグ
・人と人との繋がりの喪失は、生き甲斐の喪失にもなった。地域社会や企業内での縛りがなくなった分だけ、失業など一旦困難な状況に陥ると人は居場所がなくなり、一人で悩み解決の道がみつからないと絶望するしかなくなってしまう。これらは最近「日本社会の劣化」と呼ばれるが、もともと市場機構が持っている弱点である
第1章 新しい公共の役割は何か
・市場経済が機能するには、それの裏表として「公」が適切に役割をはたしていなければならない。ここで「公」というのは、新しい公共と行政の両者を含んでいる。このうち、新しい公共の活動の土台となるのは、他者のことを想い共感する人びとの志と多様な主体の連携による取組みである。一方、行政機能の公は、市場機構ではできないことを人びとの合意と負託によって行政が補完することにある
・十分に発達した市場経済でも、市場機構にはできることとできないことがある。市場経済の威力は、市場を通じて物やサービスが交換されて初めて発揮されるが、それによって満たされる個々の消費者の欲求は、市場で提供される財・サービスを通じたものだけである。人々の欲求の中には、市場での交換では実現されないものが数多くあるが、それらは市場経済では満たされない。これは市場の失敗と呼ばれる。市場の失敗の多くは、住民や国民が連携して取り組まなければならないサービスの供給である
・新しい公共の目的は、市場経済でも行政でも実現されない人びとの欲求を満足させ、同時にそれによって活動に参加する人びとの自己実現を図ることにある
・新しい公共により取り組まれる内容はさまざまなであるが、共通しているのは活動の便益がサービスを直接受ける人に限定されることなく、広く地域社会全体に及ぶことへの期待である。これは行政サービスと同じ特徴であるが、新しい公共には行政とともに市場経済を補完することが期待されている
・交流の拠点が文化と経済の中心になっていることは、規模の大小と内容の違いはあるが、現在の都市でもまったく同じことである。そこで行われている一つ一つは、詰まるところ多様な背景を持った人と人との交流・連携であり、都市はそれの集積体であると言える。地方圏における新しい公共の活動も、そのことにおいて何ら変わる所はない
・新しい公共の四つの機能
①「行政機能の代替」・・・行政が担うべきサービスを、自らの意思で住民に提供する活動
②「公共領域の補完」・・・行政が担うべきとまで言えないが公共的価値の高い領域のサービスを提供する活動
③「民間領域での公共性発揮」・・・ビジネス的な色彩が強い事業について、それに公共的な価値を賦与して住民に提供する活動
④「中間支援機能」・・・活動に関係する官と民や民と民を仲介し、他の団体を支援する活動
⇒ まなびしごとLABとときがわ社中が行っているのは、③または④
・地域住民が活動に参加する3つの動機
①参加すること自体の楽しみ
②新たな収入の楽しみ
③公への貢献の楽しみ
第2章 行政機能を代替する人びとの取り組み
・・・・これらの活動は、農村部においては人口流出や農業の兼業化によって人で不足が顕著になってきたこと、都市部においては人と人との繋がりが弱くなり地域のコミュニティ組織が次第に衰退してきたことなどにより、地方自治体や政府の仕事に移っていき、住民の関わりは希薄になって行った
第4章 ビジネスが担う新しい公共
・公共的価値を生み出すこと、それによって収益をあげることとは矛盾するものではなく、新しい公共による営利活動が公共的価値の増進に貢献している
・経済産業省「ソーシャルビジネス研究会報告書(2008年)」では、社会性・事業性・革新性の三要件を満たす主体をソーシャルビジネスとして捉えている。・・・人口減少・高齢化や環境保全、安全安心など地域の直面する課題を、ビジネス手法を用いて事業の持続性を確保しながら解決するものである
・これらの組織は社会貢献に価値を置くが、損失が出ると活動の本来の目的が果たせなくなるため、一定の利潤を獲得することは存続に必要である
第5章 新しい公共を支える中間支援組織
・新しい公共の重要な役割の一つは、市場機構ではできないことを行政とともに行うことであるが、そのような活動を支援するのも、また重要な役割である。活動として大きく二つある。第一は官と民との触媒機能であり、第二は民と民を結びつける触媒機能である
・地域で活動するには、行政側にある情報を熟知して取捨選択したり、行政と接点を持てることが大事であるが、そのためには中間支援組織としての新しい公共の役割が必要である
第6章 担い手をどう育成するか
・新しい公共による地域づくりでは、活動主体と対象分野の「多様さ」がキーワードであり、多様さは「新しい」公共の定義そのものといえる
第7章 新しい公共を支える小さな資金循環
・資金の使われ方の視点は、資金を拠出する個々人にとっても大事である。今日のように国際化が進んだ状況の下でも、自分の資金が、関わりを持つ地域でどのように活用され貢献しているかは、個人の関心事だろう。新しい公共が地域づくりで役割を果たしていく上で、資金の使い手の「顔」が見え、資金の出し手の「志」が込められた資金循環を活性化させていくことは重要であり、目に見え実感が伴うだけに、人と社会の関係をよりよいものにしていくことにもつながる
第8章 国土計画が目指した地域の自立
・地域の住民には「住民が、より良い生き方ができるよう、自ら考え行動する姿勢を持ち、参加して取り組む」という視点を持つことが求められる。新しい公共の持つ社会的な意義は、このような意味で自立した個人や地域が交流し連携することによって生き甲斐が生まれ、新しい価値が生み出されることにある。・・・小なりといえども、地域の資源や産品を活かし域内の資源の循環を高めるという、内発的発展の要素となる核をもつことが重要なのである
第11章 これから重要性を増す新しい公共
・地域経営の具体的な目標は取り組みによって異なるが、新しい公共の活動では、従来の行政の仕事の仕方とは異なった民間ノウハウを活用し、持続的に発展できる地域を追求するという意識が込められている
・このような地域経営が行われるなかで地方自治体の果たす役割は、自ら実施する立場からプロデューサー型行政に転換し、「地方自治体=提供者、住民=受益者」という図式を全員参加型に変えて行くことであろう。住民の参加機会を作ることは行政の役割でもある。しかし大事なことは、市民団体を便利に使うのではなく、それぞれの自主性を尊重することである
・新しい公共による地域づくりと地域活性化は、人づくりと社会の仕組みづくりを柱としたソフト施策という性格が強い。そこで期待されているのは所得の増加もさることながら、生活にとって必須なサービスを維持し、持続可能な地域環境を整え、実情に合わせた安定感ある地域づくりを行うことである。人づくりと社会の仕組みづくりは、そのために必要不可欠なアプローチである
・規模の利益は、現在の大都市圏のように人や機能が一か所に集積することによるメリットを指している。これに対して範囲の経済は、規模は小さくても特色を持った地域が交流し連携することによって、新たな価値が生まれることを言っている。その意味で「範囲の経済」は「連携の経済」とも言い換えられる
エピローグ
・新しい公共を支えるのは、利他的な視点を持つ民間の担い手である。その取り組みを実効あるものにするのは、多様な主体の相互の関心や共感に基づく関係の回復である。大切なことは、多様な主体が連携し行政と協働することであり、個々の主体がバラバラに対応しても有効には機能し難い
・市場経済における個々人は、需要者であれ供給者であれ、市場機構のそもそもの機能として、価格を媒介にして繋がっているだけである。市場経済では、個人は家族・親族やコミュニティ、会社など身に纏っているものをはがされると、自らの合理性を頼りに行動する孤独な存在である。しかしこれまで個人を囲ってきたこれらの組織も変質し、保護機能は弱くなっている。このような状況において、安定感ある社会を作り出すのが、個々人の交流・連携による新しい公共である
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