石破茂氏による講演会「地方創生を国民運動に!この国の再生は地方創生から」
2022年3月12日(土)11時~13時、初代地方創生相の石破茂さんによる講演「地方創生を国民運動に!この国の再生は地方創生から」 がときがわ町で開催されました。
この日は前日からの戦略合宿の2日目にあたり、テントを撤収してから玉川温泉でひとっ風呂浴びてさっぱりしてから会場にやってきました。
会場に到着したときは、ちょうど石破さんが到着した直後でスーツ姿の方々が多く、異様な雰囲気が感じられました。
石破さんは初代地方創生大臣だったこともあって、「地方創生」にかける思いは一入なはず。
地域でのしごとづくりに何かヒントが得られるかと思い、参加してきました。
後半はときがわ町の玉川温泉で創業の株式会社温泉道場の山崎氏、石巻市の松村氏、国交省の水嶋氏によるパネルディスカッション。
講演会とパネルディスカッションを聞きながらの気づきや考えたことなどを、個人的なメモとして整理しておきます。
講演会まとメモ
「⇒」は個人的な感想、考え
・過去の「列島再生」「田園都市構想」「ふるさと創生」と今の「地方創生」との大きな違いは、できたらいいなではなく、「これが失敗したら国や地方がつぶれてしまうという危機感」
・これまでは先送りしても何とかなった時代。人口増、経済成長あったため。
→ 今は恐ろしいスピードで人口が減っている。先送りは許されない
・人口が減っていいわけがない。モノが売れなければGDPは伸びない
⇒ GDPを唯一の指標とすることにそもそもの問題はないか?
⇒ 無形物(サービス)などの消費が含まれていない
⇒ モノの所有に対する欲求は薄れ、シェアする時代
・岸田内閣の「新しい資本主義」。資本主義とは何か?
①人口が増える
②消費意欲がある(=ぜいたく願望)
③適切な金利がつく
→ 金利がつかないというのはお金に価値がつかない、市場原理が働かない状態
・人口が減ることを前提に新しい国を論じることはできない
⇒ 本当にそうか。今までが過密だったと考えることはできないか。人口増だけが唯一の正解か。
・なぜ人口が減るのか?
①結婚する人が減った
②結婚年齢が遅くなっている
→ 出生率が一番低いのは東京。でも婚姻率が一番高いのも東京。そこに人が集まっている。だから人口が減る
⇒ なぜ東京に人が集まるのかを考えるべきでは。おもしろいことがある(と思われている)から。「人口が減ってしまうから」という理由で地方を選択する理由はない。それは国の事情で個人には何の関係もないこと
⇒ 地方を元気にするという方向性には異論はないが、「元気」の指標(人口、GDPなど)には疑問を感じる
・江戸時代は江戸に人口が集中しないようにしていた。
「地方には地方の経済、教育、文化がある」
→ 大規模な輸送の仕組みをあえてつくらなかった。「天下泰平」
→ 黒船とともに「殖産興業」「富国強兵」に変わった
・国の力を「強くする」ために、東京で成功することがサクセスストーリーとして描かれ、その結果として東京一極集中が生まれた
・みんなが安く、大量に、同じものを欲する画一的な時代
⇒ 社会に合わせた人材を輩出するための画一的な教育システム
・日本は農林水産業に適した国。だがこれを伸ばすための十分な政策が講じられてこなかった
→ 霞が関の人が日本中のすべての地域の資源を知っているわけではない。むしろ知らない。地域の人が一番よく知っている
→ 「地域をよくするためにはどうしたらいいかを地域の人が考える」ことが地方創生の一番のポイント
・行政だけで考える問題ではない。産(企業)・官(行政)・学(大学、教育)・金(金融機関)・労(労働組合)・言(地元メディア)が連携して考えなくてはならない問題
・地方の「人、金、情報、時間」を補うために国の支援策
⇒ 地方創生交付金の使い方として、相変わらず東京を見て、東京のコンサルタントに委託してしまいお金が流れ出ているという問題もある。地方に残るのは立派な地域の総合戦略の冊子とハコモノだけ
パネルディスカッションまとメモ
【パネラー)
株式会社温泉道場 代表取締役 山崎寿樹 氏
ISHINOMAKI2.0代表 松村豪太 氏
国土交通省 水嶋智 氏
もろやま創成舎 笠原喜雄 氏(途中参加)
●松村氏
・工場誘致・企業誘致ではなく、「人」(=面白い人)の誘致
・ボランティア → 移住 → ローカルベンチャー → 移住第二世代の活動
●山崎氏
・スモールビジネスで稼げる仕事、稼げる会社をつくり、税金をたくさん納めることが真の地域貢献
・地域の課題に対して、温泉を中心に事業をつくる、人をつくる(育てる)
・地域のモノを使って、ものづくり、場所づくり
・地域の困りごとや遊休スペースから仕事をつくり、地域の循環をつくって地域を盛り上げていくこと
●笠原氏
・もろやま創成舎社長
・株主に東京医科大、商工会、金融機関、ケーブルテレビ、民間企業
・毛呂山町は20代前半の年齢層が多いが、25歳以上からガクンと減る。大学卒業後は地域外に出てしまう。
・地域に人が残るようにするには「地域にしごとをつくる」こと
・城西大学と連携してビジネスコンテスト開催
・毛呂山町のふるさと納税の運営代行を受託し、ビジネスコンテストの財源に
・まちづくりを継続可能にしていくことが目的
●水嶋氏
・地域の鉄道は8割、バスは7割が赤字
・これまで公共交通は事業者任せにしてきた。ビジネスとして
→ うまくいかないと撤退してしまう
→ 地域社会がもっと関わっていく必要性
・上下分離。線路などのハードは地域が整備し、運行は民間企業が行なう方式。
・定住人口の減少に対して、交流人口・関係人口を拡大することが「観光立国」の目標
・観光立国の本質は「住んでよし、訪れてよしの国づくり」
【国に対する政策提案】
【松村氏】
・パイの奪い合いになる移住政策ではダメ。日本全体が幸せにならない
・「地元の人だけで決めるべき」という排他性は嫌い
・地域の相対化が重要。いろんな地域に所属できる
【山崎氏】
・規制緩和で可能性は大きく広がる
・廃校などは利用用途の制限が厳しい
・今あるものを負の財産ではなく、資源として利活用する視点が大事
・球場にしても試合ではほとんど使われていない。いろんな使い道がある
【水嶋氏】
・地域づくりの担い手は数十年前と比べて力強くなっている
・官と民の役割分担が大事。一緒にやっていくこと
ときがわ町起業支援施設にて意見交換会
講演会終了後は、ときがわ町起業支援施設iofficeに場所を移しての意見交換会。
比企地域の行政関係者や議員、プレーヤーの方々などが集いました。
これまでに見たこともない光景です。
お手元に関根さんとの共著『地域でしごと まちづくり試論』も用意されており、石破さんも手に取ってくださっていました。
関根さんから、比企起業大学や本屋ときがわ町の取組について紹介する場面も。
石破さん、iofficeの本棚に興味津々の様子でした。
人口1万人という小さな町での活動ではありますが、比企起業大学や本屋ときがわ町の取組を知っていただけて良かったです。
また、個人的にはお会いしたいと思っていた方ともお話することができました。
いろんな方のお話を聴くとともに、自分のしてきたことも振り返る非常にいい機会となりました。
貴重な機会をいただき、ありがとうございました!
全体としての感想
最後に全体を通じて、2020年3月まで市役所で公務員だった経験も踏まえ、個人的な考えを整理してみました。
(だいたいはTwitterで投稿したとおりですが、やや感情的で雑駁な表現になっています。公開することに迷いはありましたが、正直なところを述べることにします。)
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・インパクトが大きな取組になるほど、官公庁のややこしい制度が立ちふさがる
→ 邪魔されないように目立たずやる
・官公庁を絡めると「画一的な」ルールでどうこうしようとされがちで、かえって地域独自の動きを妨げることもある
・個別具体的な地域の問題は、国レベルでは問題にされない、リアリティが薄い
→ 国に頼らずに自分たちでできることをやる
→ 国に相手にされなくても、勝手にやる
→ むしろ相手にされない方が勝手にできる身軽さ
・続けることで少しずつ実績を積み、徐々に勝手にできる範囲を広げる、勝手にやること(人=仲間、応援者、共感者)を増やす
・官と民の役割分担も大事だが、それよりも大事なことは官と民という垣根を超えたパートナーシップが築けること、価値観の共有
→ 「官は支援する立場だから考えるのは民間の人にお任せ」というのは市民に主権を委ねているように見えて、実は無責任、役割放棄、丸投げにすぎない。
→ 「一緒にやりましょう!」であるべき。発端は官からでも民からでもどちらからでもいい。大事なのはそこで「よし、やりましょう!」と相手も乗ってきてくれる状態、関係であること
・国や行政に一番期待するのは「支援」「介入」ではなく、「邪魔をしないこと」。邪魔をしている制度を、地域のプレーヤーが活動しやすいように整えてくれることが一番の応援になる。
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ちなみに私自身は地方創生とか地域活性化を「目的」に事業をしているわけではありません。
やっていることは同じように見えても、公務員であったころと個人事業主である今のもっとも大きな違いはそこです。
あくまでビジネスとして「地域でしごとをつくる」ことに取り組んでいますので、こうしなきゃダメ、これをやらないとダメという他からの強制力はありません。
私自らが「やりたい」と思ってやっていることです。
ただ、地域が元気にならないでもいいのかといわれると決してそんなことはなく、「地域でのしごとづくり」のプロセスや一つの結果として、「地域が元気」になるのであればなおいいと考えています。
地域には「おもしろそう」「楽しそう」が必要
最後に、講演会から交流会まで参加していて、途中から抱いていた違和感について少し触れておきたいと思います。
その違和感とは「なんかつまらないな」ということでした。
その理由について考えてみると、「国や地域の豊かさが、「人口」や「GDP」でしか図られていない。だからワクワクしないのではないか」という疑問に突き当たりました。
もちろん各地域で事業に取り組んでいる方々のお話は非常におもしろかったのですが、どうも政治とか行政というものが絡むような話になってくると「おもしろい」という要素が抜け落ちて、ルールとか数字、データという話になりがちなのです。
これまでも何度か書いてきましたが、私は人口が増加することが必ずしも良いとは限らないと考えています。
オーバーツーリズムの問題、道路や水道などのインフラの問題などもあることから、地域ごとの「最適」な規模というものがあるのではないかと思います。
もしかしたら今までの人口が「過剰」だったのかもしれない。
そもそも何人だったらいいのかということも分からないまま、「人口は多ければ多いほどいい」とはならないのではないかと思います。
個人的には、人口に関していえば「量」が多いことよりも「質」が大事だと考えています。
それは国レベルでも地域レベルでも同じで、極端にいうと、国や地域のことなんてどうでもいいと思っている「1億人」がいるよりも、国や地域のことをとても大切に思う「1万人」がいることの方が重要ではないかということです。
また、そもそも人口とか経済成長の数字うんぬんで「地方創生」「地域活性化」の問題が語られているのを聞くと、最初に書いたとおり非常に「つまらない」。
どこにもワクワクがないからです。
確かに人口が減り続けたら地域はなくなってしまうかもしれない。
でもそれは「動かなければいけない」という動機や危機感にはなりえても、「やりたい」という意欲にはつながらないんじゃないか。
地域によほど愛着のある人以外はアレもコレも課題を突き付けられたら嫌になって出ていってしまうのではないでしょうか。
外の人も同じでそんな地域に行きたいなんて誰も思わないでしょう。
たくさん課題があるからと地域にやってきて、それを嫌々やっているなんて人に会ったことがありません。
ではなぜ地域に行きたいと思うのかといえば、そこに「おもしろそう」「楽しそう」な要素があるからです。
好きな、あるいは興味を引く人、自然、動物、食べ物、歴史、文化、景色などがあるからだと思います。
危機感や義務感や正しさだけでは人は動かない。
ワクワクする、楽しそう、面白そう、そう思える仲間や場があることが大切だと、地域に関わる仕事をしていて感じます。
公務員を辞めた私が「地域でしごとをつくる」ことをしごとにするのは、それが楽しいからなのです。
危機感がないと言われてしまえばそれまでですが、「つまらない」よりは「楽しく」しごとがしたい。
結局それができる場所や地域を選ぶ。
それが今の正直な気持ちです。
石破さんはじめ、関係者の方々のいろんなお話を聴く中で、私自身のそんな気持ちに気づくことができました。
これをやらないとダメではなく、いろんな「地方創生」があっていいと思います。
一つの正解ではなく、一人一人が自分事として取り組めることがある、それに寛容であることが地域の元気につながるのではないかと思いました。