実務家が目指すブランドづくりとは

今回取り上げるのは片山義丈さん著の『実務家ブランド論』です。

現在、私は仲間と運営している一般社団法人ときがわ社中として、埼玉県滑川町の特産物である「谷津田米(やつだまい)」のブランディングに関わっています。
そのようなところから「ブランドづくり」には非常に関心を持っていました。

一般的に「ブランド」というと、「差別化」といったキーワードが頭に浮かびます。
ほかの競合する企業や商品に埋もれずに、高単価で売れるような確固たる存在になるための「差別化」を図ることがブランドの目的である。
私もそのように考えていました。

ですが、本書では「差別化」はアップルやナイキ、スターバックスなどのスーパースターブランドのみにあてはまる定義であり、平凡な人や会社にとってはマネをしても意味がないといいます。

ブランドをつくる目的はあくまで「企業が儲かること」「商品が売れる」ことであると述べられています。

本書ではそのような視点に立ち、実務家としてのブランドづくりについて解説されています。
ここでは本書を読んで特に気になった2つのことについて私の考えを述べたいと思います。

ブランドの土台に必要なのは「存在意義」「約束」「人格・個性」

ブランドづくりのためには、まず「知ってもらうこと」、つまり妄想してもらえることが何よりも重要だといいます。
そして、そのことによって一部のスーパースターブランドのような「愛とすらいえる妄想」ではなく、「なんとなく好き」と思われるようなブランドを目指すのが実務家としてのブランドづくりだとされています。

「なんとなく好き」と思われるためには「あなたの企業・商品は、一体どんな存在なのか?」「そもそも何者なのか?」が認知される必要があります。

そのために必要なのが以下の3つの土台です。
①存在価値(ブランドアイデンティティ)
②約束(ブランドプロミス)
③人格・個性(ブランドパーソナリティ)

「存在価値(ブランドアイデンティティ)」とは、簡単にいうと企業や商品の「こだわり」のこと。
逆にいえば、本当にこだわっていないことはブランドにしてはいけないということになるかと思います。

二つ目の「約束」とは「存在価値」としてのこだわりを、生活者にとって意味のあるものに変換することです。
どんなに強いこだわりも、相手にとって関心がないものであればその人にとっては価値がないものになってしまいます。
相手にとって意味があるものに変換してこそ、そこに価値を感じてもらうことができます。

そして三つ目の「人格・個性(ブランドパーソナリティ)」は、ブランドとして何かをやるときに、それをやるべきか、やってはいけないのかを判断する基準になるとしています。
つまりは「こだわり」や「約束」やその他の行動などが一貫しているかということだと思います。

本書で取り上げられているブランドづくりは、小さな個人や企業が目指すブランディングの形として、非常に分かりやすく、取り組みやすい内容だと感じます。
「差別化」することばかりを考えてしまうとなかなか最初は自分の「強み」といえるものが見つからずに悶々としてしまいますが、「こだわり」であれば誰にでもあるものなので取り組みやすいからです。

そしてそれを「相手(お客さん候補)に対して意味のあるものにしていく」というのもポイントです。
これはまさに「お客さんづくり」の入口に相当する部分で、私が今取り組んでいる「お客さんが興味を引くポイントを探る」ということにもつながると思ったからです。

「ブランディング」というと何かキラキラとして高尚なもののように感じてしまいがちですが、本書で述べられているいわば凡人のためのブランディングは「よし、やろう!」と思えたことが大きかったです。

こちらを参考にしながら、今一度、自分の「存在価値」「約束」「人格・個性」を洗い出してみようと思います。

「こだわり」は発信しないと認知されない

本書を読んで気づいたもう一つの大きなことは、どんなこだわりも「発信しないと何も伝わらない」ということです。

たとえ私が特定の分野にどんなに強いこだわりを持っていて、それを極めるために血のにじむような努力をしていたとしても、その分野に関心のない生活者にとっては何の関係もありません。

ですが、もしかしたらその分野に関心を持っている人や、私が発信した情報に触れて「おもしろいな」と感じて興味を持ってくれる人もいるかもしれません。
そして「なんとなく好き」と思ってくれる人もいるかもしれません。

確かに発信したとしてもそういう反応が起こるとは限らない、でも発信しないと絶対に起こることはないということです。

幸い今はSNSで誰でもが簡単にいつでもどこでも発信ができる時代です。
逆にいうとそれだけ情報量が増えて埋もれやすくなっているともいえるかもしれませんが、個人が情報を発信しやすくなっていることは紛れもない事実だと思います。

であればいい結果が起こるかどうかは分からないけど、やってみた方が得るものは多いはずです。
たとえ結果にはつながらなくても、その過程で自分が考えてきたこと、やってきたことは無駄にはなりません。

また、発信する上でのポイントは「続けること」。
埋もれやすくなっているがゆえに結果が出ないからといって辞めてしまう人も多いといいます。
辞めてしまう人が増えていく中で、続けていれば成功する確率はどんどん上がっていくはず。

では続けるためにはどうしたらいいか。
それにはありきたりですが、「好きなこと」を続けることです。
そこに結局は「こだわり」があるかどうかということに関わってくるのだと思います。

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ということで新年1発目は『実務家ブランド論』という本を取り上げてみました。

今年も飽きずに(懲りずに?)おもしろい!と思った本の読書記録の発信も続けていこうと思います。
興味を持っていただけましたらご覧いただけますと幸いです!

以下、参考として本書で気になった箇所をまとメモとして公開しています。
(「⇒」は個人的な意見、感想メモです。)

また、忙しくて本を読む暇がない、ここに書かれていることを何度も読み返したいという方に向けて、音声配信アプリstand.fmのチャンネル「地域でしごとをつくるラボ」でも『実務家ブランド論』のご紹介をしています。

よろしければこちらも合わせて活用してみてください。

stand.fm「地域でしごとをつくるラボ」での本書のご紹介はこちら

まとメモ

・実務家にとっては、「差別化」「約束」という定義は間違っている。間違った定義を使うから、ブランドはつくれない

第1章 教科書ブランド論で、ブランドはつくれない理由

・究極のブランド、スーパースターブランドのみにあてはまる定義が差別化・約束
 ⇒ ほとんどの人や会社にとって、スーパースターブランドのやり方をマネしても意味がない

・「機能的価値の方が情緒的価値よりも、圧倒的に重要である」
 → ただし「今の時代」に限定すると、「機能的価値よりも情緒的な価値が圧倒的に重要」(第2章)

・ブランドとは「その人の頭の中にあるかってなイメージ=妄想」
 → (ブランドを)思い出すきっかけになるものに出会ったときに、(→知っていることに気づき→)その瞬間に頭の中に自然に浮かんだ勝手なイメージ

・実務家ブランドの理解に重要な3つのポイント
 ①ブランド(妄想)は、何もしなくても自然にできるもの
  → よほどのことがなければ「自らが持っている特徴や個性」が妄想(ブランド)になっていく
  → その企業・商品が本当に持っているものからつくらないと絶対にだめ
 ②ブランド(妄想)は実体と違うこともありえる
 ③知らないものは、ブランドではない

・「ブランドは、生活者、つまりお客さまが持っているもの」というのが絶対的な本質

・「ブランドづくり」とは、すなわち「妄想づくり」

・実務家が目指すのは、「あなたの企業・商品」と「生活者」の間に「約束」をつくることではない。まず「知ってもらうこと」、つまり妄想してもらえることが何よりも重要

・ブランドをつくる目的は「企業が儲かる」こと、「商品が売れる」こと。「企業の事業活動に貢献する」こと

第2章 実務家ブランド論における「ブランドの土台」とは

・「機能的価値の方が情緒的価値織も、圧倒的に重要」
 → 「今の時代」に限定すると、「機能的価値よりも情緒的な価値が圧倒的に重要」
 → 機能的価値では差がつけられない時代
 → たくさんある「いいもの」の中で、あなたの企業や商品を選んでもらわなければならない
 → そこでブランドが力を発揮する

・ブランドづくりに必要な土台とは、「あなたの企業・商品は、一体どんな存在なのか?」「そもそも何者なのか?」

・ブランドの土台として決めるべきこと
 ①存在価値(ブランドアイデンティティ)
 ②約束(ブランドプロミス)
 ③人格・個性(ブランドパーソナリティ)

・「存在価値(ブランドアイデンティティ)とは、あなたの企業や商品が「なぜか、こだわっている」こと、あなたの「企業・商品らしさ」
 ⇒ 自分が本当にこだわっていること

・ブランドづくりとは、生活者の頭の中に企業や商品の妄想をつくること。「あなたの商品のことなどまったく興味ない人」の頭の中に「あなたの商品の目指すイメージ」をつくるという地道な取り組み

・あなたの企業や商品が「なぜか、こだわっていること(存在価値)」を「生活者にとって意味のあるものに変換」することで、「約束」をつくる必要がある

・「約束」において何よりも大切なのは「約束を決める」ことではなく、「守るために努力し続ける」こと

・「約束」を交わすためには「この人」は、どんな人(人格・個性)なのかが、はっきりしている必要がある
 → 「人格・個性(パーソナリティ)」は、ブランドとして何かをやるときに、それをやるべきか、やってはいけないのかを判断する基準になる

第3章 実務家ブランド論のブランドづくりの方法

・ブランド戦略とは、「ブランド」づくりにおける「目的達成のための資源利用の指針」
 ①ブランドづくりの目的を、もっともっとはっきりさせること(日本中の人がなんとなく好きではダメ)
 ②資源(人・モノ・金)がどれだけ使えるのかをはっきりさせること
 ③何をやるのか、そして何をやらないのかをはっきり決めること

・ブランドづくりで目指すべきは、「あらゆる接点」で「生活者が受け取る情報」が「常に一貫している」こと

・「ブランドをつくる力」とは、「生活者に〇〇〇な企業・商品と思われたい情報」と「生活者との接点で伝える」の掛け算
 → ブランドをつくる力を最大化するには、「情報の量を増やす」こと、情報を伝えるための「生活者との接点の数を増やす」ことの2つをする

・実務家は「オウンドメディア」「アーンドメディア」「ペイドメディア」のトリプルメディアで「目指すブランドの情報」を「生活者の頭の中に伝えて」ブランドをつくる

・ブランド実務家は「存在価値、約束、人格・個性」を「生活者のまわりにある情報を防ぐバリアを破る情報」に変換して、「3つのメディアをすべて使って生活者の頭の中に届ける」ことで、「ブランドをつくる」ことに取り組む

・「ターゲットを絞れば絞る」ほど、「伝えたいことを絞れば絞る」ほど、バリアを破って情報を伝えることができる

【特別対談】田中洋教授×片山義丈

・「ブランドづくりは企業・商品が本当に持っている価値を、正しく伝えるための本質的な活動」(片山)