「連携」と「共創」へ

今回取り上げるのは『公民共創の教科書』

公民共創とは、簡単にいえば、行政と民間が連携して事業に取り組むことですが、これには「官民連携」「官民共創」「公民連携」「公民共創」などいろんな呼び方があります。

本書では、連携と共創を明確に区別し、より出発点に近い段階から、行政と民間が新たな価値を生み出していくという意味で、「共創」という言葉が用いられています。

VUCAの時代といわれるように、不確実性が増し、多様なライフスタイルの個人が多様なニーズを持つ今の時代には、行政だけ、民間企業だけで社会や地域が直面する課題を解決することが難しくなっています。

そこをいかに行政と民間がパートナーとしての関係を構築し、共に課題解決や新たな価値創出に取り組んでいけるかということが本書のテーマになります。

なぜ官民共創か

私は「官民共創」を自分の事業の1つの柱に掲げています。
(なぜ本書の「公民」ではなく「官民」かについては、また別のテーマになってしまうのでここでは割愛します。意味するところは同じといっていいと思います)

ではなぜ私が官民共創に取り組むのか。
今回はこれについて述べてみたいと思います。

結論からいえば、私が官民共創に取り組む理由は、それが私にとっての差別化ポイントだからです。

私は2020年3月まで越谷市役所で行政マンとして働いていました。
今は個人事業主として起業し、一般社団法人を設立するということもやってきました。

その中で、行政と民間の経験があるということで双方の仲介者、翻訳家、調整役になるということが、地域で私が果たせる役割ではないかと考えるようになりました。
周囲からのそのような期待も感じるところです。

また、私自身も行政時代に、やはり民間企業とのルールの違いといったことを強く感じることがありました。
双方のパートナー関係をもっとうまくつくることができたら、もっといろんなことができるのにという可能性を強く感じていたのです。

確かに行政にとっても民間にとってもルールは重要。
行政は税金として預かったお金を適正に使う必要がありますし、民間も株主のために利益を上げ、社員を守らなくてはなりません。

でも実は「最小経費で最大効果」を上げるということに関しては、行政も民間も同じではないか。
そう考えるようになりました。

であれば、行政だけ・民間だけではできない、あるいは行政だけ・民間だけでやるよりも大きな効果が期待できるのであれば、「一緒にやる」という選択肢があっていいはずです。

今はイチ民間の立場ではありますが、行政に近い位置、一種の「公共」に近い立場でプレーするというのが、私の目指すところです。

そのためには、経営や事業のことはもちろん、行政のこともこれまで以上に学ばないといけません。
公務員という身分ではなくなりましたが、辞めた今だからこそ、行政のことについて学び続ける必要性を感じているところです。

本書は現役の横浜市職員が執筆しているということで、行政視点での共創の考え方や官民共創分野のフロントランナーである横浜市の事例を学ぶことができました。

学びは終わりませんね。

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以下は本書から気になるところを抜粋したまとメモです。

まとメモ

第1章 共創とは

・現在の我が国では、強固に官民を分ける二元論を前提とした形でさまざまな物事が進んでおり、制度上も、意識や認識の上でも、民間と行政とのPPPは、未だスタンダードではなくイレギュラーな手法としてのレッテルを貼られている

・人類は長い歴史の中で直面したさまざまな公共的な課題つまり社会みんなの課題に対し、多様な立場の人々が協力し、それぞれが持つ知恵や力を出しあい、試行錯誤や失敗を重ねながらもさまざまなイノベーション(革新)を起こして困難を克服し、発展してきたはず

・本書における「共創」の定義
 企業や各種法人、NPO、市民活動・地域活動組織、大学などの教育・研究機関などの多様な民間主体と行政などの公的主体が、相互の対話を通じて連携をし、それぞれが持つアイデアやノウハウ、資源、ネットワークなどを結集することで、社会や地域の課題解決に資する新たな価値を共に創出すること

・人間の社会システムは「私・公共・公」という三元論で成り立っている(元拓殖大学教授 長坂寿久氏)
 → 「公共」とは「私」と「公」を媒介する概念であり、私と他者で成り立つ社会において、まず私が考える私益があり、その私が他者とのコミュニケーションをする場である公共領域で合意されたものが公共益、その公共益を守り拡大してもらうために私たちがつくったのが国家や政府などの公

・日本においては、明治以降の近代化における歴史的経緯の中で、「公・私」の二元論つまり「公共領域の部分は公が担当するもので、私は公共のことも公に任せておけば良い」という考え方を基本として社会システムが構築されてきました

・官の決定権問題とは
 公民連携事業の意思決定プロセスにおいて民の意向が反映されずに、費用対効果を発揮するという意味で劣ってる官の知識のみで決定されてしまうという問題

・従来型の行政主導型の公民連携から一歩踏み出し、民間と行政が、事業の早い段階から対等な対話をし、事業を構想していくことこそが公民連携の本質

・官の決定権問題の回避の知恵として「民間提案」と「市民参加」がある。この部分を仕組み化し、実践することが、共創を本質的に進めていくためには大切

・ファンクション活用型公民連携・・・事業のファンクション部分について民間の知恵や力を活かして、その効率化・高度化をすることが中心

・ビジョン創出型公民連携・・・事業のビジョンづくりの部分から民間と行政が連携する、あるいはファンクション型のビジョンづくり部分を補完するもの

第3章 横浜市における共創の推進

「共創推進の指針」

・共創の3つの目的
 ①質の高い公共サービスの提供
 ②新たなビジネスチャンスの創出
 ③横浜らしい地域活性化の推進

・共創の4つの原則
 ①対等・対話の原則
 ②目標共有の原則
 ③アイデア保護と透明性確保の原則
 ④役割分担と責任明確化

・共創の4つの視点
 ①市民・利用者の視点
 ②財務の視点
 ③成長・発展の視点
 ④地域・社会の視点

第4章 共創を推進する対話的アプローチ

・共創事業の6類型(一つの事業でも複数の類型の組み合わせあり)
 ①共創のための基盤づくり(連携協定)
 ②民間活動への公共リソースのシェア
 ③民間のCSR・CSV活動に行政が協力
 ④公民のリソースを出し合った実証実験
 ⑤行政活動に民間リソースを活用
 ⑥民間が持つコンテンツ・ライセンスの公益目的でのシェア

第5章 共創推進の方法論やノウハウ、ポイント

・構想案の検討段階で意識したいポイント
 ①共創パートナーと社会との関係が「三方よし(WIN-WIN-WIN)」になること
 ②「公共性・公益性」と「手続きの適正さ」を確保すること

・PPRPモデル
 共創事業において最低限必要な4つの要素

「Purposo:目的」
 ①共創関係者が「共感」できるビジョンやストーリーを持った目的を共有・理解する
 ②公共性・公益性を確保する
「Player:人的資源」
「Resource:物的・知的資源」
「Process:過程・手続き」
 ①民間と行政の間の契約関係が、適切な過程・手続きで結ばれているか
 ②共創事業を実行するために必要な過程・手続きを確保できているか

・3PMモデル
 「People Merit:市民(社会・地域)が得られるメリット」
 「Private Merit:民間が得られるメリット」
 「Public Merit:行政が得られるメリット」

 の3つが内容的・バランス的に確保できているか(定量的・定性的・感覚的)

・共創は、あえて俗っぽく言えば「仲間を創る」こと

・民間と行政の違い
 
【民間】
 (行動原理)自分のカネで自分のために働く
 (規模)大小さまざまだが、総じて小さい
 (業務)総じて、単純化しうる業務内容
 (組織目的)利益の極大化
 (成果の尺度)利潤、売上などを数値で計測
 (活動資源)自己活動から得た利益が原資
 (競争条件)常に競争にさらされる(倒産あり)
 (活動の柔軟性)組織活動を規律する規則は少ない(活動は柔軟性に富む)
 (戦略の決定)会社人が戦略を決定する(重役会議、株主総会)
 (顧客の範囲)商品サービスの購買者

【行政】
 (行動原理)他人のカネで他人のために働く
 (規模)概して会社組織より大きい
 (業務)規模の大小にかかわらず、多種多様
 (組織目的)公共福祉の極大化
 (成果の尺度)利潤などに相当する統一的尺度なし
 (活動資源)国民の納付した税金が資源
 (競争条件)地域独占的な性格を持つ
 (活動の柔軟性)組織活動を規律する規則がこと細かい(活動は柔軟性に欠ける)
 (究極は政治のメカニズムによる
 (顧客の範囲)受益できる権利者

・資金調達方法の類型
 ①民間負担型
  A:CSR型・・・民間が、社会貢献や寄付として事業資金や物品などの資源を負担し、負担した資金の回収は基本的に行われない
  B:間接回収型・・・共創パートナー以外の第三者である民間サイドの人や組織が事業資金を負担・提供する
    ア 広告・スポンサー型
    イ 他機会回収型
    ウ その他間接型
  C:直接回収型・・・共創事業自体から生まれる製品やサービスなどを民間サイドが販売し、その直接的な収益をもって事業経費にあてる

 ②補助金・助成金確保型
  共創パートナーとなる行政サイドからではなく、国などの別の公的機関やさまざまな社団・財団などの公益的組織などからの補助金や助成金を得て、共創事業の資金とする

 ③行政負担型
  共創パートナーのうちの行政サイドが、共創事業に必要な資金を負担する

・共創事業における民間の収益は良くないものである、という硬直的で極端な考え方を取ってしまうと、短期的であればうまくいくこともあるかもしれませんが、中長期的な持続可能性のある事業を創ることは困難だと思いますし、短期的な取組ですぐに解決できるような課題は、社会や地域の中でのごく僅かなもの

・民間負担型の共創事業を実行していく場合は、事業経費に加えて民間サイドにある程度収益が上がる形でないと、事業の継続や改善、トラブル対応などの追加経費が出しにくくなり、結局その影響は地域や住民などの受益者に及びます

・地方公共団体の契約における公平性の確保とは
 ①形式や手続きなどの契約プロセスにおいては、基本的に水平的公平性を確保することが求められる
 ②結果の公平性はプロセスの公平性で担保される

・機会の公平性 → 選定の公平性 → 結果の公平性

・行政支出が0円の場合は、共創パートナー間の契約において、法令上も明確な決まりがない