ときがわ町で「しごとをつくる人」インタビュー第2弾

今回のインタビューのお相手は、ときがわ町の田中交差点近くでセブンイレブンを営む岡野正一さん

前回は、コンビニ事業を通じて感じた「社会の歪み」に対して、岡野さんがどのように関わってきたのかについてお聞きしました。
今回は、岡野さんがどのようにして自らの考え方や行動をつくり上げてきたのか、その内面的な変容について伺いました。
また、3年前からセブンイレブンで取り組んでいる移動販売事業についてもお聞きしました。

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「しごとをつくる人」インタビュー第1弾の晴耕雨読・橋本拓さん・容子さんのインタビュー記事はこちら(第1回第2回第3回

岡野正一さんへのインタビュー③

目の前に困った人がいるならば、手を差し伸べずにいられない。
それは岡野家の血筋と話す岡野正一さん。

ただ、それだけでもなく、「ゆがみがあると気持ちが悪く、手を突っ込みたくなる」という自らの精神性について語ってくれました。

根っこにあるのは「師弟論」

僕の根っこにあるのは「師弟論」なんです。

―― 「師弟論」といいますと、どのようなことでしょう?

相手との関係性として、困っている相手に対して「手を差し伸べる」という関係性であるということです。

どういうことかというと、これまでの人生を振り返ると、僕の身近には常に、「この人についていけばなんとなる」というような人の存在がありました。

―― たとえばどんな人がいたんですか?

中学生のときは社会の先生でしたし、高校のときは演劇部の顧問の先生、お芝居では師匠の寺十吾さんというように。
これから先、何が起こるかわからない状況がある中で、この人についていけば何とか生きていけるかなという「心の拠り所」のような存在です。
気がつくと、人生の段階段階で、自分の一回り、二回り上の人たちで、そういうような人の傍にいつもいたような気がします。

また、本を読むときも作家読みをしています。
その時の自分の置かれた状況に対して、「答えを与えてくれそうな人」です。
宮本輝さんとか内田樹さんとか。
今だと山口周さんですね。

昨年、コロナが起こったときも、作者と読者という関係の中で、本を読みながらいろんな疑問を作者に投げかけながら生きてきました。
ずっと作者と対談しているイメージです。

―― いわゆる「メンター」のような存在でしょうか?

メンターという言葉を知ってからは、その言葉が近いような気がしています。
教えを乞うべき相手というか、対談相手というか。

好きな大人、目上の人がずっといたんです。
無意識にその人の傍にいる。
その人についていくと、将来のことはわからなくても、自分にとってその時々で必要な人という存在です。

また、本を読むときの作者との「対談」は、思考の補完や整理につながります。
だいたいそういうときは腹が立っていることが多いんです笑
疑問を投げかけて、この人だったらこう答えるだろうというような問答を繰り返しています。
「これはこうじゃないんですか?」とか、車の中で声を出してみたり笑

それで怒りが収まってくることもよくあります。

―― なるほど。

僕は他者との関係性がすごく重要だと思っているんです。
僕がこれまでそういう人の傍にいて、なんとか生きてきたように、自分の周りにいる困っている子たちにとって、自分がそういう存在でありたいと思っています。

―― それがナナメの関係なんですね。

自分がやりたいことをやることが、その人が一番安定する

―― これからときがわ町で、どんなことをしていきたいですか?

ときがわ町という場所にこだわっているわけではありません。
自分が関わっているところに歪みがあれば手を突っ込みます笑

それが今はときがわ町で、「この場所で生きていくならば」という前提ですが、仕事で関わっている人たちが、自分らしく愉快に生きていくことが一番だと思っています。

仕事は社員にご飯を食べさせるためにやっているし、愉快に生きるために使いたいものに使えるためのお金を稼いでいるんだと考えています。
そのために事業拡大が必要であれば拡大するし、必要なければしません。

―― 社員さんとか一緒に働いている方のことを考えていらっしゃるのですね。

自分がやりたいことをやることが、その人が一番安定すると思っています。
安定していると、安心して行動できます。

僕らの仕事は広い意味でのインフラだと思っています。
たえず開いていて、たえず物があって人に安心感を与える仕事です。
逆に不安定な場所だとこの商売は成り立たない。

また、都内とか街場ではコンビニはやりたくないですね。
この規模のまちだから今のようなできていることができていると思います。

―― 確かに。これまでお聴きしたような人との関わり方をしていたら、人が多い都市部だと体を壊してしまいそうです

その代わり、うちはお客さんにも当たり前のことを求めます。
コンビニはいろんなものが手に入り便利というイメージがありますが、タダではない。

たまにあらゆるものが無料で手に入るというイメージを持っている人がいますが、それは違うとはっきり伝えています。

移動販売をやりたいがためのコンビニ事業

そうそう、やりたいということでいうと、今やっている移動販売には今後もっと力を入れたいです。
移動販売がおそらく僕の考え方が一番顕著に表れていると思うからです。

―― 移動販売に表れているという岡野さんの考えというのはどんなことでしょう?

お客さんを選ぶし、お客さんに求めるものもあるということです。
できないことはできないけど、できることはやります。
コンビニはなんでもはやらないし、できません。

―― 今はどのくらいの頻度で移動販売を行っているんでしょうか?

今は週4回、移動販売車を走らせていますが、夏ころには週5回を達成したいと思っています。
今年で3年目になりますが、倍、倍で成長しています。
それでも足りない。
本当は車2台で週7回いきたいくらいです笑

―― 場所はどのあたりを回っているんでしょう? 実は見かけたことがないのですが、ときがわ町内全域?

旧都幾川村エリアを回っています。
どこかに店舗を開いてそこに来てもらうという形ではなく、1ルートを除いて、個人宅を巡回するようなスタイルをとっています。
個人の家に小さなお店が来るというイメージですね。

予め注文を受けてそれを持っていくというのではなく、その場で好きなものを選んで買ってもらいます。
スタッフがその日に回るお客さんの今までの買い物の様子を見て、よく買われるものは少し多めに持っていったりと調整することもあります。

その日に回る家で、何が必要そうかをすべて把握しているんですよ。

―― それはすごいですね! 回る家はどのように開拓しているんでしょう?

実家が元酒屋だったので、最初はお得意さんから初めて、徐々に口コミで広がりました。
あとはお店に来るのが大変そうな方がいたら、声をかけて移動販売もやっていることをお知らせすることもあります。

―― 今はどれくらいの方が利用されているんですか?

1日だいたい30軒くらいを回ります。
レジを通った回数の延べでいうと、月600人に接触していることになります。
これはけっこう大きな数字だと思っていて、特にご高齢な方との接触が多いということを何かに活かせるのではないかと考えています。

たとえば別の業者の集荷配送の一部を担えば買い物弱者対策にもなりますし、役場の福祉サービスを補完することもできるかと思います。

―― 確かに!

経営革新をお手伝いしていただいている中小企業診断士の先生からは、「それをやりたいがためのコンビニ事業なんでしょうね」といわれました笑

いろんなことを続けてきた結果、そこに集約されつつある感じでしょうか。
定期的に決まった家に配達に行くという強みが活かせればと思っています。

移動販売事業の今後の課題

―― 移動販売事業の今後の課題はどのようなことでしょう?

移動販売の成功事例は意外に少ないんです。
人件費だけ見たら、赤字です。
でも高齢者の生活環境や若者の教育環境は、地域が存続するためにはやっていかないといけないことです。

今はお客さんの情報や購買データ、配送ルートはデジタル化されているわけではなく、完全にスタッフの頭の中のものです。
極めて属人的なものになってしまっています。
これをどう活かすか。

また、相手が高齢な方が多いので、場合によってはイチ事業者にはどうにもならないような場面に遭遇する事例もあるというようなことを耳にしています。
そういうときのスタッフのフォローをどうしていくかということに関しても考えていかないといけません。
そこまでできている事業者というのはないようです。

―― 難しい問題ですね。「コンビニはインフラ」という話も聴きますが、地方部だとその言葉の重みが違う気がします。

インフラとして要求されるレベルは地方の方が大きいですよね。
食料品や日販品の提供サービスというようなレベルじゃすみません。
災害時は開放してくれともいわれます。
「インフラ」という看板を掲げるには覚悟が必要ですね。

そういう自覚を持ってコンビニ事業をやっています。

―― 「コンビニ」というと敷居が低いように感じますが、やっていることは地域や人に大きな影響力を持っているんですね。
ありがとうございました!