ときがわ町で「しごとをつくる人」インタビュー第3弾 その②
今回お話を伺ったのは、ときがわ町西平地区にある養老牧場「ときがわホースケアガーデン」代表の鈴木詠介さん。
養老牧場とは、通常、引退した競走馬、乗馬用の馬を預かってお世話をする牧場という意味で使われます。
でもときがわホースケアガーデンでは、馬が過ごすのに快適な環境をつくりながらも、積極的に馬と人、馬と地域との関係を築いていこうと取り組んでいます。
鈴木詠介さんが考える、ときがわホースケアガーデンの過去、現在、未来の姿を、3回にわたってお届けします。
鈴木詠介さんの1回目のインタビュー記事はこちら。
第1弾の晴耕雨読・橋本拓さん・容子さんの記事はこちら(第1回、第2回、第3回)
第2弾の株式会社レイキモッキ・岡野正一さんの記事はこちら(第1回、第2回、第3回)
鈴木詠介さんへのインタビュー②
馬が暮らしやすい場所づくり
前回は、馬を育てる仕事との出会い、ときがわホースケアガーデンとの出会いについてお話を伺いました。
運転手の仕事を始めてすぐの頃、ホースケアガーデンの前の経営者が倒れてしまい、経営を引き継ぐ打診をされた詠介さん。
自分のやりたいことができることに魅力を感じて、経営を引き継ぐ決心をされたといいます。
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(前回からの続き)
―― 自分のやりたいことができることに魅力を感じたということは、やりたいと思っていたことがあったのでしょうか?
いっぱいありました!
一番は、「馬にとってもっと良い場所にしたい」ということです。
経営的なことももちろんありましたが、それはいったん置いておいて、こうしたら馬がもっと暮らしやすくなるだろうなということがたくさんありました。
それと地域の人がここ(ホースケアガーデン)ともっと関われるようになるかということを考えていました。
―― そもそもホースケアガーデンはいつからあったんでしょう?
そこまで詳しくは聞かされていませんが、20年以上はやっていると思います。
―― それで経営を引き継いだのが・・・
2018年1月なので、4年目ですね・
―― 経営者になってから変えたことは具体的には何でしょう?
一番変わったといえるのは、「キレイ」にしたことです。
―― 「キレイ」にした?
とにかくキレイに、です。
キレイでないと馬も気持ちよく暮らせませんし、そもそもキレイにしないと人が来ない笑
以前はもっと汚くて、実は馬のオーナーさんからの評判が悪かったんです。
「管理状況が悪い」というクレームもありました。
「こんなところに預けられているの?」と言われるくらい。
広くない分、管理のレベルをもっと上げる必要性を感じていました。
それを今は徹底しています。
まず整理整頓から始まり、栄養面、運動面を考えて、馬が気持ちよく暮らせるために何が必要かを考えてつくり直しました。
馬房も広くしました。
放牧地は逆に狭くして、その分、馬が運動できるような場所を確保しました。
昔を知っている人が見ると、「キレイになってる!」とすごくびっくりされます笑
そうしたらうまくいき始めて、おかげさまで馬を預けたいというオーナーさんも増えて、預かり切れないほど要望をいただいています。
やはりオーナーさんが一番のお客さんなので、そのオーナーさんが大事にしている馬にとって良い場所であることが大事です。
「養老牧場」という場所
―― ホースケアガーデンではオーナーさんから馬を預かっているんですよね?
そうです。
うちには今10頭の馬(※)がいますが、うち8頭はオーナーさんから預託されている馬です。
今は競走馬が多いですが、俺が来る前は大型の馬を扱える人がいなかったので、小型がメインで3頭しかいなかった。
自分が入ったことで大型の馬を見られるようになったので、競走馬を引退した馬も受受け入れられるようになりました。
―― 「養老牧場」というんですよね? そういう場所にはほかにもあるんでしょうか?
全国的には数は少ないです。
うちも空いたらお願いしたいという連絡をいただくこともあります。
それだけ引退馬が行けるところは少ないんです。
こういう場所をやっていると、うちに来なくてもいいから、馬たちが行ける場所がどんどん増えてほしいという思いが強くなってきます。
むしろそういう場所を増やすために、いいモデルをつくりたいという感じ。
―― 馬の寿命は何年くらいでしょう?
20~30年が多いでしょうか。
でも競走馬の寿命は3~4歳で、天寿をまっとうできるのは1%程度と言われています。
―― それは厳しいですね。なぜなんでしょう?
引退すると引き受ける人がいなかったり、行き場所がなかったりでさっ処分されてしまう馬がそれだけ多いということです。
気性が合えば乗馬クラブに引き取られることもありますが、気性が荒くて乗馬に向かない馬はさっ処分されてしまう。
また言いにくいですが、乗馬クラブは乗る人のための馬ということがメインで、馬の管理はおざなりになりがちなところもあるのではないかと思います。
―― 私たちが知っている馬の生活って、競馬とか乗馬とか動物園とかで見るくらいで、牛に比べると接する機会が少ないですよね。それはそういうことが影響しているんでしょうか?
競走馬は特にシビアです。
職業選択が、生まれた時から競走馬しかない。
競走馬がダメだったら乗馬、乗馬もダメならさっ処分。
ただ俺個人は、競走馬をたくさん産ませすぎるとか、さっ処分することも、そこにはそれなりの経営判断があることは理解しているので否定はしません。
ただ、なんとなく思うのは、それ以外の選択肢がもっとあってもいいんじゃないかということ。
最初は競馬、次は乗馬というのはあったにしても、その先とかそれ以外の馬の選択肢はあってもいいんじゃないか。
それがいわゆる「馬事文化」みたいなものだと思っている。
だから、地域にとって馬の価値があるといえる場所が増えるといいなと思うし、ここでそんな仕組みをつくり出せたらいいなと思っています。
馬という生き物
―― 馬はもともとは農耕馬のように人間の生活に密接に関わっていましたよね。それが今では競馬や乗馬のように限られた機会でしか接することがなくなっています。特に日本人は。
馬は家畜の中では人間のパートナー的存在といえるんじゃないかと思う。
人を乗せたり、農地を耕したり、物を運んだり。
もっと生活に身近だった。
でも今は競馬や乗馬といった特定の層の人の趣味の対象として、限定的な関わりになってしまっているのはあると思う。
馬の選択肢を増やすことで、馬はこんな暮らしをしているんだよとか、こんな働き方ができるんだよということを示すことができたら。
―― どういう方が引退馬のオーナーになっているんでしょう? やっぱり競馬ファン?
競馬を引退した競走馬が運よく別のオーナーに引き取られれば、乗馬クラブへ行って、そこでその馬を気に入った人がオーナーになって乗馬を引退したときにうちに連れてこられるというパターン。
あと、競走馬時代に一口馬主になっていて、引退したときに引き取ってオーナーになってうちに連れてきた人もいる。
こういう仕事をしていると、この馬が好きという競馬ファンにとって、引退した馬に会えることはすごく大きな価値だと感じるよね。
―― 確かに。
昔は馬がパートナーで馬屋とかが家にあったけど、今は住宅事情も変わってなかなか一緒に暮らすことはできない。
―― 馬のオーナーになる人ならある程度、経済的にはゆとりがあるんでしょうけど、飼うのは都会の真ん中じゃまず無理ですもんね。
ときがわであれば土地も広くて、山もあるし、うちみたいな場所があれば「馬を持つ」というハードルを下げられるんじゃないかと思います。
いつでも好きな馬に会いに来られる場所。
そうすると馬を引き取るという人も増えて、馬の選択肢を広げることにつながるかもしれません。
―― ホースケアガーデンの規模がいいですよね。大きすぎるとどこにいるか分からなくなるけど、ここだったらまさに「会いに来る」という表現がぴったりですね!
「会いに来られるアイドル」みたいな感じになれば笑
―― 確かに、馬というと「白馬の王子様」とか憧れ、豊かさみたいなイメージがあります。
牛だと牧場はけっこうあって、お肉として食べることも身近なので「救う」という発想にあまり結びつかない。
馬は、競馬ファンにとっては、まさに「スター」みたいな感じ。
そのバランス感が絶妙なんでしょうね。
また、「ときがわ」という場所も絶妙だと思っています!
(次回に続く)
※2021年5月末現在
ときがわホースケアガーデン
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