地域でしごとをつくることの「価値」と「可能性」

今回ご紹介する本は、『ソーシャルX 企業と自治体でつくる「楽しい仕事」』です。

私がこの本を読んで再確認したのは、地域でしごとをつくることの「価値」と「可能性」でした。

まず、地域でしごとをつくることの「価値」とは、以下のようなものです。

・地域にしごとが生まれると、地域に売上ができる、地域に来る人が増える
・雇用が生まれ、さらに来る人が増え、売上が上がる
・さらにしごとが生まれ、地域が元気になる

しごとが生まれることで、人、もの、金、情報やそれらの循環が生まれ、その結果として地域が元気になっていきます。
(人口増はその過程で現れる結果の一つであり、必ずしも人口増=地域の活性化であるとは私は考えていません)

そんなイメージです。

では地域でしごとをつくることの可能性とはどんなものでしょうか?

前提として、ここでいう「地域」とは私が主にビジネスのフィールドとしている地域であり、人口でいうと3万人未満程度の小さな地域を指します。

通常、人口が多いほどビジネスには有利なように思えますが、この本で再確認したことはむしろ人口が少ない小さな地域、つまり私が普段しごとをしているような地域におけるビジネスチャンスということでした。

その理由は大きく2つあります。

一つは、小さい地域ほど実施しやすい。
もう一つは、「グリーンオーシャン」です。

このことについてまとめてみました。

小さい地域ほど実施しやすい

一つ目は、小さい地域ほど新規事業を実施しやすいということです。

もしかしたら、逆に「小さい地域は人、モノ、金といったリソースが少ないから実施しにくいのでは?」と思う人もいるかもしれません。

でも自治体と民間企業との共創ということに関していえば、これまでの経験上、私は小さい地域の方が圧倒的に実施までのスピードが早いと考えています。

その理由として以下のようなことが挙げられます。

・首長と直接会える機会が多い
 ⇒ 大きい地域では、自治体の係員→係長→課長→部長→首長というように、いくつもの段階を経る必要があることが多い
・財源が限られるので、小さな予算で小さくスタートできる
 ⇒ 大きい地域では、自治体の予算が大きく、大きなことをやりたがる傾向がある
・関係者が少ない分、調整がコンパクトにできる
 ⇒ 大きい地域では関係者が多く、調整が煩雑になり、なかなか進まない
・リソースが限られる分、いろいろやらずに集中投資するしかない
 ⇒ 大きい地域では自治体の予算に余裕があり、いろいろやってしまう

本にあった次の2箇所は、小さな地域の「優位性」を端的に表していると思います。

企業にとって最初の取り組みは大規模自治体である必要はない。規模感が小さめの自治体の方がむしろ進めやすいだろう。・・・人口規模の小さな自治体は小回りが利く上に、社会課題を解決できた時のインパクトも見えやすい。これは小さな自治体だからこそのメリットだ。

これからの官民共創では、むしろ規模の小さい自治体にこそチャンスが出てくる。・・・自治体の規模が小さい方が官民共創プロジェクトを小さく生み、仮説を検証し、検証結果をプロジェクトにフィードバックして改善を図るという一連のPDCAを高速で回しやすいからだ

グリーンオーシャンとは

地域でしごとをつくることの可能性、ビジネスチャンスがあることを示すもう一つの要素は「グリーンオーシャン」です。

「グリーンオーシャン」という言葉をご存じない方が多いかと思います。

この言葉は、本書『ソーシャルX』の3人の著書らによる造語で、「 社会性や公益性があり、マネタイズまでに少しだけ時間はかかるかもしれないが、きちんと事業としても成り立つビジネス領域 」のことを指すんだそうです。

ビジネスをやっている方であれば、似たような言葉で「レッドオーシャン」「ブルーオーシャン」は聞いたことがあるかもしれません。

念のために説明しておきますと

レッドオーシャンとは血で血を洗うような競争の激しい既存市場のことを指しています。

それに対して、ブルーオーシャンとはレッドオーシャンに比べて競争相手が(比較的)少ない未開拓の領域のことを指します。

これらに比べて、グリーンオーシャンの最大の特徴は、「マネタイズまでに少しだけ時間はかかるかもしれない」ことです。
つまりそれだけ見逃されている可能性が高い領域であることがわかります。

しかも私が普段しごとをしているような小さな地域であればなおさらです。
人口や予算規模の小ささゆえに、大きな企業ほどビジネスチャンスは小さいと判断して参入することがなかなかできない地域であるともいえるのではないかと思います。

だからこそ、私のようなミニ起業家が活動できる余白が大きいのです。

小さい地域で実績を生み、それを横展開することで企業としてビジネスの計算が立つ規模にできることが本の中で指摘されていますが、「ビジネスの計算が立つ規模」の水準も、ミニ起業家と大きな企業ではまったく違います。

そのため、いかに目立たずにやるか、「必要以上に拡張しない」という選択肢もとることができるのではないかと思います。
ビジネス規模の小ささが参入障壁になりえるわけです。

個人事業でも、一般社団法人ときがわ社中という地域商社の事業においても、まさにグリーンオーシャンというべき領域に取り組んでいるんだということを認識しました。

行政も含め、地域でしごとを共につくる、官民共創を掲げている私にとって、このグリーンオーシャンは一際強く印象に残る言葉となりました。

地域でのしごとづくりを考える視点がまた大きく広がった気がします。

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以上、今回は伊藤大貴さんほか2名の著者による『ソーシャルX 企業と自治体でつくる「楽しい仕事」』についてご紹介しました。
参考になりますと幸いです。

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また、忙しくて本を読む暇がない、ここに書かれていることを何度も読み返したいという方に向けて、音声配信アプリstand.fmのチャンネル「地域でしごとをつくるラボ」でも本書『ソーシャルX』のご紹介をしています。

よろしければこちらも合わせて活用してみてください。

stand.fm「地域でしごとをつくるラボ」でのご紹介はこちら

その他、気になる箇所を以下にまとメモを公開しています。

まとメモ

第1章 新しい官民共創が生まれる

・”お役所仕事”を「解決したいけれども、自治体が自前では解決できない社会課題が山積みしている状態」と定義している。”お役所仕事”をクリエーティブに支援する取り組みは、企業にとっての大きなビジネスチャンスである

・一つ一つの自治体における取り組みは小規模でも、全国には1718の基礎自治体と47の都道府県が存在する。1か所の自治体で実績を積んで横展開できれば、企業としてはビジネスの計算が立つ規模感にできる
 ⇒ 広げすぎてしまうと目立ち過ぎて、より大きな会社につぶされてしまう。
   広げるととともに、あえて「広げない」ことを考えることも重要

・案件として採用されて納入した成果物は募集した自治体に特化したものになることが多く、それを他の自治体でも活用できるように汎用化する作業は手間がかかるからである。この状況は、行政による社会課題の解決に民間企業がビジネスとして参入しにくいと考える大きな要因の一つになっている
 ⇒ 参入障壁が高いからこそ、突破すれば優位性が持てる

・行政が曲がり角にあるのは、戦後営々と築き上げてきたシステムが制度疲労を起こしていることが大きい。その原因はシンプルだ。従来のシステムが前提としていた「人口ボーナスに支えられて経済が成長し、それに伴って税収が伸びていく時代」が終わったからである

・採用を控えてきたことで、若い人材が地方自治体には絶対的に足りていない。それもあって、自治体が実施し切れなくなっている業務や、対応し切れなくなっている社会課題は増える一方だ。・・・視点を変えると、お役所仕事には多くのニーズが存在しているということになる。非効率なまま放置せざるを得なくなっている業務、解決したくても手を出せなくなっている社会課題は、民間企業にとってビジネス機会の宝庫だ
 ⇒ 地方は、手つかずの自然資源とお役所仕事という2つのビジネス機会の宝庫が重なっている場所

・世の中の大きな流れでいえば、自治体と企業の利害は一致している。社会課題の多様化が進む一方で、自治体は単独ではそのニーズを満たすことができず、頭を抱えている。企業は従来の株主資本主義から脱却し、事業と公益の両立を目指すことを投資家や社会から求められている
 ⇒ 自治体と企業の調整役を担う中間支援の役割にもニーズがある!

・1718の基礎自治体に東京都の23区を1市として加えて考えた場合、人口が10万人未満の市町村数の割合は84.7%。5万人未満は7割程度で、2万人未満でも4割を超える。つまり、人口が少ない自治体が圧倒的に多い

・地方創生はブームを形成したにもかかわらず、地方からの人口流出には歯止めがかからず、地方で新たなビジネスを起こせたわけでもなく、自治体の困りごとの解決には至っていないというのが実情だろう。この数年間の結果だけを見れば、企業と自治体のミスマッチが発生していたといわざるを得ない。なぜ、このようなことが起きているかといえば、現在の日本の平均的な姿を正しく把握できていないからではないか。加えて、自治体と企業がビジョンを共有する仕組みが存在しないことも大きな要因だ

・利用する自治体が増えることを見込めれば、成果物の価格を下げることができ、自治体サイドは利用しやすくなる。どこかの自治体でいい事例が生まれることで自治体の横並び意識がプラスに作用し、「自分たちも使ってみよう」という動きにつながるはずだ。
 この発想に立つと、企業にとって最初の取り組みは大規模自治体である必要はない。規模感が小さめの自治体の方がむしろ進めやすいだろう。・・・人口規模の小さな自治体は小回りが利く上に、社会課題を解決できた時のインパクトも見えやすい。これは小さな自治体だからこそのメリットだ。そして、汎用解としての成果物を横展開できれば、小さな自治体を束ねて大きな規模感に広げていける可能性がある

第2章 官民共創の現在と未来、6つの環境変化

・公共サービスにおける行政の役割は、これまでの提供者からファシリテーターに変わるのだという。提供者とは、市場で供給されないサービスを公共サービスとして個人に直接供給する役割のことである。ファシリテーターとは、サービスが自律的に提供されるようにその供給構造を再設計し、実行を後押しする役割である

・新しい流れは、過去の日本の姿と同じではなく、一段上がって進化したものだと考えた方がいい。つまり「稼ぐ」という意識を持ちながら、社会への貢献を果たしていくということになる。官民共創の観点では、企業の力を求める自治体と公益性を重視する企業の目的が同じ方向を向くことになる。

・行政サービスのフルセット主義を捨て、共有できる公共の施設やサービスは周辺の自治体と共有し、自前で提供するサービスは手元に残すという水平分業体制への移行だ。これが自治体の生き残り戦略として重要になってくる

第3章 官民共創を成功に導く6つのポイント

・イノベーションは「起こそう」と思って起きるものではなく、信念に基づいて行動した結果として「起こるもの」である

・新たな価値創出が社会課題につながって、初めて共創ということになる。つまり、企業と行政が何かを一緒にやるだけでは共創とは呼べない

・共創を腹落ちさせるのは「100の言葉よりも1つの体験」である。小さくてもいいから、まずは共創を体験することが重要だ

・「官の決定権問題」とは、「官民連携の意思決定プロセスに民間の意向が反映されず、費用対効果に知見のない行政の知識のみで決定されてしまうこと」

・これからの官民共創では、むしろ規模の小さい自治体にこそチャンスが出てくる。・・・自治体の規模が小さい方が官民共創プロジェクトを小さく生み、仮説を検証し、検証結果をプロジェクトにフィードバックして改善を図るという一連のPDCAを高速で回しやすいからだ

・(公務員は、)官民連携/官民共創をデザインするに当たって、カウンタパートになる民間企業にどんなメリットを提供できるか、ここをきちんと設計できないと良い関係が築けないと真剣に悩んでいる

・包括連携協定は自治体と企業の間で交わされるれっきとした契約書。予算は発生しないものの、契約書である以上、底に書かれていることは履行する義務を自治体も企業も負うのである。・・・自治体と協定を結んだ企業は、その政策領域については優先的に自治体と情報の交換と共有ができるし、自治体も協定を結んだ企業に相談を持ちかけることができる

・特に、公共サービスは機能よりも意味(ストーリー)が重要になってくる。「顧客=市民の体験がどう変わるのか」「市民にどのような体験を提供できるのか」という視点は極めて大切になる

・社会性や公益性があり。マネタイズまでに少しだけ時間はかかるかもしれないが、きちんと事業としても成り立つビジネス領域を筆者らはグリーンオーシャンと呼んでいる
 ⇒ レッドオーシャンでもブルーオーシャンでもなく、グリーンオーシャンの考え方はいい!

・従来の経済活動は主に顧客と企業にとってのメリットを考えてきたが、グリーンオーシャンの領域は顧客となる市民を含む社会や地域が得られるメリットと企業にとってのメリット、行政が得られるメリットの3つをそろえる必要がある

・グリーンオーシャンで自治体と企業を結びつけるハブの役割を果たす仕組みがフューチャーセンターである。・・・・フューチャーセンターの特徴は、行政と企業がフラットに対話できる環境を整える点にある
 ⇒ 行政と企業の対話の場の必要性

第4章 逆転の発想による新しい官民共創

・企業から自治体への寄附という仕組みは、なぜ実現可能なのだろうか。それは、自治体にお金を払ってでも社会課題を知りたい企業が少なくないからである
 ⇒ 企業は地域にある社会課題を求めている

・大切なポイントは、企業として「何ができるか」ではなく、自分たちが「どういう未来をつくりたいか」を自治体に伝えるということだ

第5章 明日から目指せる隣のまちの官民共創

・共創によってシステム構築に臨む日野町は企業がファーストペンギンとして敬意を払うべき対象だ。一緒にシステムを開発する体験自体が価値で、新規事業への開発投資である

・生駒市にとって、ワイヤレスゲートとの実証実験は思いがけない効果もあった。それは新しいことへ取り組むことの意欲、アイデアを口にしてもいいんだという、職員の働き方の変化である