「ミライの教育」を考えるヒントが満載!
「ミライの教育」とありますが、ここでは狭義で、特にICT普及時代の学校教育について考えてみました。
私は今、埼玉県ときがわ町で小中学校のICT支援員として活動しています。
昨年度からのコロナ禍の中で、GIGAスクール構想が一挙に進み、ときがわ町でもようやく1人1台端末の整備を終えて、これから本格的なスタートを切ろうとしているところです。
そんな中、学校現場の先生方のお話を聞いたり、いろんなオンライン教育の事例を見聞きしたり、あるいは民間企業におけるオンライン研修のサポートをさせていただく中で、オンラインをどのように活用すると、より最適な学びを生み出せるかに興味を抱くようになりました。
この問題意識については、先日開催されたオンラインでの「SHARE by WHERE」というイベントで、「教育3.0 地域教育の変⾰を促進するICT教育とは」というセッションを視聴したことも大きいです。
(なお、こちらのセッションに関して、レポート作成を担当させていただきました。登壇者は非常に個性的な方ばかりで、非常におもしろいです!レポートが公開されましたら、またシェアしたいと思います。)
セッションの最後で大きなヒントを得ることができましたが、本書ではそのまさに実践例となるスタンフォード大学・オンラインハイスクールの取り組みが紹介されていました。
「オンライン授業」という言い方
本書の内容については、まとメモに記録しましたが、なかでも私が特に気になったのは、「オンライン環境では生徒の側が受け身になりやすく、学びのハードルが高い講義ベースの授業との組み合わせが非常に悪い」ということです。
どういうことかというと、そもそも講義ベースの授業には以下のようなハードルがあるのだといいます。
- 長時間、大ぜいに囲まれた環境での集中力が要求される
- ノートの取り方、要点の押さえ方などの学習スキルが必要
- それぞれの生徒に合わせることを前提としていないため、生徒側の意欲やスキルが伴わないと効果的な学びが実現できない
GIGAスクールの推進で、よく先生方から聞かれる悩みにこのようなものがあります。
「今までの授業をタブレットを使ってやるにはどうしたらいいんだろう」
つまり今までの授業をそっくりそのままオンラインに置き換えることを前提にしているのです。
おそらくそれでは、先生の側は同じように授業をできたとしても、それで得られる生徒側の学びの効果は小さいものにとどまってしまうのではないかと心配しています。
「オンライン講義」が先行して実施されている大学で講義を受けている大学生の不満の声も、新聞などで報道されているように、オンラインでの一方的な講義授業は「学べている」「身についている」実感が少ないのではないでしょうか。
極端に言えば、聞いているだけになってしまい、それではYouTubeで動画を視聴するのとまったく変わらないでしょう。
学費を払っている分だけ「損」ということになりかねません。
対面とオンラインとでは、学習環境や相手との距離感、相手の反応の見え方などが全く違います。
だとすれば対面での授業とオンラインの授業は、まったく違ったやり方を考える必要があるのではないかと思います。
本書によると、スタンフォード大学・オンラインハイスクールでは、オンライン下での授業への学生の参加度低下を防ぐために、反転授業を採用しているといいます。
反転授業というのは、生徒が事前に学習を進めた上で、リアルタイムの授業ではすでに予習してきた知識などを使って他の生徒とディスカッションしたり、問題の演習をしたりする参加型の授業のことです。
予習をしていないと授業で意見を述べたり、演習に取り組むことができないので、参加度が必然的に高まるというわけです。
ちなみに私がサブ講師を務める比企起業大学でも、各自で毎月の課題学習に取り組んだ上で、月1回のゼミでオンライン上で集まって意見交換をしていますが、これもまさに反転授業ですね。
また、授業への参加度が高まる以外に、反転授業にはもう一つのメリットがあります。
それは授業を起点として学校コミュニティーを作り出すことができるということです。
通常のリアルな学校であれば、授業が先生対生徒の講義形式であっても、休み時間などで友達同士で話したり遊んだりしてコミュニケーションをとることができます。
その結果、学校内でのコミュニティ形成が進みます。
ですが、オンライン上ではそれが難しいのです。
そのため、スタンフォード大学・オンラインハイスクールでは、通常の対面の学校空間よりも、意識的に生徒間のコミュニケーションの空間をデザインすることに取り組んでいるといいます。
その起点となるのが、生徒同士の意見交換を活発に行う反転授業の場ということになります。
これにはなるほど!と思わず大きくうなずいてしまいました。
これはリアルとオンラインでは環境がまったく違うということを前提にしていないと出てこない発想かと思います。
「オンライン授業」というと、どうしても「リアルの授業のオンライン版」のようなイメージを持ってしまいがちですが、リアルとオンラインの環境の違いを踏まえて上で、オンラインならではの授業のやり方を考えていく必要がありますね。
「自分の人生をデザインする」ということ
オンラインならではの授業のポイントとしては、「オンラインだからこそできること」に焦点を当てるのが有効なのではないかと思っています。
私が考える「オンラインだからこそできること」は主に2つあります。
①世界中とつながれる
②できることが増える=選択肢が広がる
①に関しては、通常のリアルな学校では、通ってくる生徒は基本的に物理的に特定の地域の子どもに限定されています。
そのため、自分の興味や関心を深いレベルで共有し合う相手に巡り合うことが難しい。
でもオンラインであれば世界中に仲間をつくることも可能ということです。
②については、オンラインだからというよりはインターネットに接続できる端末を子どもたちが手にすることで、できることが一気に広がります。
そのことによって、学び方の選択肢、学ぶ内容の選択肢、進路の選択肢などが爆発的に増えるということです。
本書では、これらによって学校の多様化や学習の分散化が起こるとされていますが、このような中では、以下に子どもたちが主体的に自分の学びを選択することができるか、それを周りの大人が認められるかが重要になると思います。
私の子ども時代には想像もできなかった時代になっているんですね。
それを「自分はもう大人だから関係ない」とか「わからないから」と投げ出すのではなく、やはり積極的に関心を持って学び続けなくてはいけないんだと思います。
そうでないと子どもの選択が理解できなかったり、可能性を潰してしまうようなことになりかねないからです。
その意味で、スタンフォード大学・オンラインハイスクールの理念として掲げられている「Design Your Learning(自分の学習をデザインする)」、そして「Design Your Life(自分の人生を設計する)」というキーワードはすごく心に残りました。
主体的に学びをデザインする、人生をデザインするという姿勢は、子どもたちにも必要ですが、その周りの大人たちにこそ必要なものなのではないかと。
私も昨年、「起業」という一つの選択をしたわけですが、人生はまだまだ続きます。
子どもとともに成長していけるよう、引き続き学び続けていきたいと思います。
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以下は本書のまとメモです。
気になった箇所を引用しています。
「⇒」は私の考えのメモ
まとメモ
・これまでの教育の常識は、ミライの教育の非常識
・予測不能で急速な変化をとげる社会の中で必要な「生き抜く力」の鍵は、現在行われているゲームを上手にプレーする力だけではありません。
次々に生まれる新しいゲームに適応できる力。さらには、新たなゲームを自分自身で作り出す「ゲームチェンジの力」が大切なのです。
→ 「ゲームチェンジの力」を磨くために出した答えが「哲学」
序章 その教え方が子どもをダメにするー恐ろしい8つの常識
①常識1「成果や能力をほめる」→ 逆に向上心が下がってしまう
②常識2「手取り足取り丁寧に教える」→ 学びが浅くなり、探究心が削がれる
・教えることの本質が、教える側の視点や考え方によって教わる側の試行を制限する行為であるということ
③常識3「評判の教材や勉強法で学ばせる」→ 才能もやる気も潰してしまいがち
・焦点を当てるべきは、それぞれの子どものニーズと主体的な学びの姿勢
・いかに優れているとされる教材や学習方法であっても、その子どもに合っていなければ、学ぶ欲求や才能をつぶしてしまう
④常識4「得意な学習スタイルで学ばせる」→ 脳科学に反する行為で記憶が定着しにくい
・人間の脳は非常に柔軟で新しい学び方にも適応することができ、多様なやり方で学ぶ方が学習効率が良い
⑤常識5「ストレスを避ける」→ 人間のDNAに逆らって余計ストレスの悪影響が出る
・大切なのは、ストレスを忘れて、むやみに避けようとすることではなく、ストレスとうまく付き合っていく心の構えを身につけること
⑥常識6「手宇都で理解度や能力を測る」→ 塞翁の学びのチャンスを逃してしまう
・テストは、最高の学びのチャンスを生み出す道具
→ 記憶の呼び起こし
→ テストは学びを評価する道具ではなく、学びを生み出す道具
⑦常識7「同じ問題を反復練習させる」→ スピードが上がっても思考力は下がる
・早くできることとじっくり深く考えることは、脳科学的にも違う活動
⑧常識8「勉強は静かに1人にでやらせる」→ 脳の「半分」は停止状態のまま
・学習にはコラボが超重要
→ 人間の社会性をつかさどる脳の領域「社会脳」
第1章 学校の定番をとっぱらう
●授業
・講義ベースの授業は、生徒の学びへのハードルが高く設定されている
→ 長時間、大ぜいに囲まれた環境での集中力
→ ノートの取り方、要点の押さえ方などの学習スキルが必要
→ それぞれの生徒に合わせることを前提としていないため、生徒側の意欲やスキルが伴わないと効果的な学びが実現できない
・反転授業を採用
→ 授業では、すでに予習で学んできたことを使う時間に割り当てられる
→ 他の生徒とディスカッションしたり、問題の演習をしたりする参加型の学習の時間
●学年
・学年制度ほど「不公平な公平」はない
→ みんなが同じルールのもとで同じ教育が与えられるという点で「公平」ではありますが、能力やニーズが異なる生徒たちが同じ教育を受けるという点で、「不公平」で恣意的であるとさえ考えられる
・スタンフォード大学・オンラインハイスクールの「Design Your Learning(自分の学習をデザインする)」の精神
→ 在籍中も、生徒とアドバイザーが定期的に学習プランと学習進度を話し合う
●カリキュラム
・無理やりみんな同じことを学ぶのは不合理すぎる
●時間割
・「Design Your Learning」と「Design Your Life(自分の人生を設計する)」の2つの精神
・学校で「定番」のみんな一緒の統一時間割は「Design Your Learning」の精神とは、相容れない伝統的な教育制度
●順位付け・偏差値
・個々の課題の評価や、学期末の成績はあくまでも、生徒が今後の学びにつなげていくためのもの
・他の人との比較で得られるやる気では、持続的な学びに対する主体性は養えない
第2章 なぜオンライン学校が全米トップになれたのか?
・コロナ下でオンライン学習にシフトした学校で大きな問題になったのが、生徒たちがオンライン学習に参加しないこと
→ オンライン教育そのものの問題ではなく、オンライン教育というツールの使い方の問題
・生徒の側が受け身になりやすく、学びのハードルが高い講義ベースの授業の特徴が、オンラインの環境では、さらに鮮明に現れてしまう
→ 講義ベースの授業とオンライン授業の組み合わせが非常に悪い
・少人数制の「反転授業」では、授業の前に予習をしなくてはいけない
・事前に教材を学んでいないと授業の取り組みに活発に参加することができないようデザインされている
・ライブの参加型セミナー授業と「いつでもどこでも」のオンライン教育を適度にドッキングさせる
・ギフテッド教育の2つの目的
①ギフテッドの子どもたちが才能を伸ばせる学習環境づくり
②ギフテッドの子どもたちに固有な問題を理解し、サポートすること
・情熱は周りから「感染」するもの
→ 「感染反応」の触媒として、大切なのが教員たち
→ 自分の専門領域に身を捧げる情熱と学びへの純粋さを彼らから体感する機会は、子どもたちにとって大きな財産となる
・オンラインハイスクールのアプローチは、授業を起点として学校コミュニティーを作り出す
→ 通常の対面の学校空間よりも、意識的に生徒間のコミュニケーションの空間をデザインしていく必要がある
・これまでの学校では、自分の興味や関心を深いレベルで共有し合う相手を見つけることができなかった
⇒ 特定の狭い地域に限定されていたため。オンラインであれば世界中に仲間をつくることも可能
・オンラインだからこそ、そうした授業外での生徒への指導やサポートを、通常以上に拡大させなければならない
・日本の受験は生徒個人が自分自身を大学に直接売り込む「セルフマーケティング」方式
アメリカでは、それぞれの高校が、生徒たちを大学側に「売り込む」
→ カレッジカウンセラーの役割
⇒ これ自体が学校の魅力を発信すること
第3章 スタンフォード大学で実現した「生き抜く力」の育て方
・一つの分野に閉じこもると、その分野特有の見方に固執してしまう。他の分野からの視点を応用することで新たなブレークスルーが生まれやすい
・哲学の営みの中核は、物事の根本や前提を問い直して、考察する音にある。
哲学の営みに親しむことで、現在のものの見方や考える枠組みから自分を解き放ち、急速に変化する社会の中で、ゆるぎない自分の価値観を模索していく力を身につけることができる
・「ウェルネス(wellness)」とは、「良い状態」を意味する「well-being」と、身体的な健康を意味する「fitness」の2つの言葉を組み合わせて作られたコンセプト
→ ウェルネスに必要な知識と心の習慣を身につけて、自分のライフスタイルを主体的にデザインしていくスキルは、現代に欠かせない「生き抜く力」
・ソーシャル・エモーショナル学習による5つの能力
①自分を理解する力
②自己マネージ力
③他者を理解する力
④人間関係スキル
⑤責任ある意思決定をする力
第4章 子どもの才能の伸ばし方
①教育でなくて学育を
・子どもが「学び育つ」という視点を意識して、子どもがベストで学べる学習条件をサポートする
・教える側に偏重した「教育」と、学びの主体性を重んじる「学育」は、互いに補完し合う視点
→ 教えることなしに学びは成り立たず、学びを考えずに教えることは成り立たない
②ステレオタイプの脅威に気を付ける
③間違えに委縮しない力を育てる
・間違えることは学ぶために必要かつ効果的な経験
・子どもを委縮させて間違えをさえる習慣をつけさせると、効果的な学習機会を逸してしまう
④子ども自身が話して、決めて、考える機会をたくさんもうける
⑤いろんな学び方で学ばせる
⑥「目標設定」と「自己評価」で効果的な学ぶをサポート
・目標設定の4つの効用
・集中力を高める
・やる気が上がる
・忍耐強く、より長く物事に打ち込める
・自分のスキルや知識の引き出しから、関連するものを見つけやすくなる
・「SIM-ple」目標設定法
Specific・・・より明確で具体的な目標を立てる
Important・・・自分の現実に即して重要な目標を立てる
Measurable・・・数値化して評価できる目標を立てる
⑦自分がロールモデルであることを忘れない
・子どもに身につけてほしい習慣を自分自身で体現し、そのために自分の改善が必要ならば、自分を変えなければいけない
⑧子どもは自分で育てず、社会の多様性に育ててもらう
・私たち一人ひとり、家族、学校はもちろん、周辺地域、その他の共同体。子どもは社会全体の中で学び育っていく
第5章 世界の教育メジャートレンド
●パーソナライズド・ラーニング
・学習のニーズの異なる生徒たちに横並びの教育条件を当てはめるのは、帰って不公平な学習環境につながりかねない
●アクティブ・ラーニング
・学ぶとは、私たちがそれまでに身につけてきた知識やスキルを使って、自分の理解を「組み立てる」こと。本質的に能動的な行為である
●プロジェクト・ベースド・ラーニング
・生徒は生活や社会に関連する具体的なプロジェクトを遂行していくことで学習を進めていく
●ディストリビューテッド・ラーニング
・学習の分散化によって、子どもたちは学校を含めた複数の学習の選択肢から、自分の環境やニーズに合わせた自分だけの学習プログラムを作り上げることができるようになりつつある
・学校を選ぶのでなく、自分のための学習機会を選んで自分だけの教育をデザインしていく
第6章 教育のミライ
・オンライン教育と学習の分散化は、学校のさらなる多様化をもたらすことになります。より多彩で、生徒のニーズに合った学習機会が提供されることになるでしょう
・学習の分散化によって、これまで学校が担ってきた子どもの包括的な育成の役割は、学校以外の教育プログラムや教育機関により広く分散されていくことになります
・分散化した学習の機会を総合的にアドバイスして、その子に合った教育の組み立てる「Design Your Learning」のサポートの役割が学校に期待されてくる
・生徒一人ひとりに選択肢が増え自由度が広がる分、自分のことをよく理解することができ、しっかりとした学習プランと目標を持てるような学習への主体性が期待されるようになる
・オンライン教育という新しい教育の形が、伝統的教育と融合していく。そのプロセスで、それぞれのやり方が見直され、淘汰が加速されていく
→ 自然な淘汰に任せていては、教育格差や社会的格差も是正されていくようなことは絶対に起きない
・オンライン教育自体はいかなる問題の解決策でもないのです
⇒ あくまで一つの選択肢として、支援者がどのように学びをデザインしていくかにかかっている