人材育成のプロが書いた「自律型人材」育成法
本書は、OJTなどの人材育成を専門とする株式会社ラーンウェルの関根雅泰さん、ラーンフォレスト合号会社の林博之さんの共著です。
お二人は私の起業の先輩であり、私が起業するきっかけとなった「比企起業塾」のメイン講師(塾長)、サブ講師でもあります。
普段は比企起業塾での付き合いが主ですが、お二人の企業向け研修のお手伝いをしたこともあり、興味深く本書を読みました。
本書が想定するターゲットとして、次のようにあります。
・複数の部下をもつマネジャー
・新人の面倒を見るOJT指導員やメンター
・中途社員や異動者の指導をする先輩社員
・研修やOJT支援を行う人事・教育担当者
・「ゼロ」から「イチ」を生み出せる起業家(個人事業主レベル)の育成を考えている方
最後の「『ゼロ』から「イチ」を生み出せる起業家(個人事業主レベル)の育成を考えている方」というのは特徴的ですね。
比企起業塾を手がけている関根さんならではの視点です。
さて、在職時代は後輩の指導にはあまり熱心ではなかった私ですが(!)、「対話型OJT」には大いに共感しました。
指導側が一方的に教えるというより、指導を受ける側と一緒に学びをつくっていくという姿勢は、私が考える「教育」の捉え方を言葉にしてくれたからです。
「教える」という表現はどうもおこがましくて、私はあまり好きになれません。
私という個人の考えの「押し付け」になってはしまわないか、相手の考えを殺してしまわないかと常々疑問に思っていました。
もちろん数学の答えのように確実に正解のあるものであればいいのかもしれませんが、それにしても正解に至るまでの考える道筋というのは必ずしも一つではありません。
それを考えていくことこそ、問題を解く醍醐味です。
だから相手にも、自分で考えて答えを出してほしいという想いがありました。
何より私自身がいろんな考え、答えがあることを知りたい。
それを知ることで、また私の創造力も刺激され、新しい気づきが得られることを期待していたからです。(なんて自分勝手な…)
そんなこともあって、「答えがわからない時代だからこそ、お互い言葉を尽くして納得解を得る『対話型OJT』」には大きくうなずきました。
「手持無沙汰」は避けるべきか
私が本書を読んで気になったのは、次のポイントです。
この「することがない」「手持無沙汰」という状態は、できるだけ避けたいものです
正直、これを読んだとき「ん?」と思いました。
それは「することがない」「手持無沙汰」な状況にあるときこそ、その人が成長に向けて「自分で考える」ことができる時間だからではないかと思ったからです。
以下、これについて述べていきます。
日々、忙しく動き回っていると、目先のことしか考えられず、つい目の前のことしか考えられなくなってしまいます。
もちろん目の前の仕事に集中するということ自体はいいことなのですが、その業務を何のためにやっているのかという目的を見失って手段を目的化したり、目先の利益に目を奪われてお客さんを喜ばせるという視点を忘れたりしてしまったら本末転倒です。
また、「こうしたらどうなんだろう?」とか、「こういうこともできるんじゃないか?」といった新たなアイデアも、ぎゅうぎゅうに詰め込まれたタイムスケジュールではなかなか生まれてきづらいです。
ちょっとした手持無沙汰な時間、ポッとした「空白」をつくりだすことで、いろいろなことを考えたり、空想をふくらませたりする時間が必要なのではないかと思いました。
時間や業務を自分でコントロールすることができる人はいいですが、なかなかそれが自分でできない人もいるでしょう。
なので、あえて「空白」の時間をつくるよう、表現は悪いですが「コントロール」してあげるということが必要かもしれませんね。
Gooleには「20%ルール」というものがあるといいます。
これはざっくりいうと、業務時間の内の20%を「普段の業務とは異なる」業務(新規事業立案)にあてて良いという制度です。
20%とまでいかなくても、1日のうち10分でも20分でも「空想タイム」をつくることで、日々、時間と業務に追われがちな働き方に、ちょっとした「自分の意思」というスパイスを加えることができるのではないかと思います。
要は、「自分で考えてみろ」というほったらかしの時間をあえてつくるということ。
もちろん、中にはだらけているだけとか、ネットサーフィンを興じてしまう輩もいるかもしれませんが、それも日々の指導の賜物(?)です。
自分の指導の成果が試される瞬間といっていいでしょう。
私は幸い、「自由にしていいよ」とほったらかしにしてくれる上司に巡り合えました。
それは指導にまったく興味がないという意味ではなく、むしろ逆で、私の組織・職場における理解度や考え方などを踏まえた上で、能力を最大に発揮できるような環境を整えてくれたものだと理解しています。
いわば、私にとっての「成長環境」を整えてくれたのです。
「成長環境」と一口にいっても、一人一人に適した環境は違うというのが私の考えです。
その人にとって望ましい「成長環境」を整えることが、相手の成長を最大限に引き出すことにつながります。
とはいえ、指導側も神様ではないので、いきなりバシッとした「成長環境」が整えられるわけでもなく、それこそ対話する中から、お互いにとっての望ましい関係をつくる中で少しずつ整えられていくことでしょう。
幸い、前職ではありがたいことに、私にとっての「成長環境」をつくっていただきました。
そのことに改めて感謝を感じる反面、40歳になる前で退職したために、組織の中での部下・後輩の「育成」ということに関しては期待された役割を十分果たすことはできなかったことに、やや申し訳なさもあります。
また、起業した今も、幸いなことにこのような著書を書いてしまうほどの人材育成の専門家に見守られています。
本当にありがたいことです。
ただ、いつまでも指導を受ける側というわけにもいきません。
これからは「育成」ということも意識していかねばと思う今日この頃です。
一人の経営者、ミニ起業家として、会社員であったころと違った視点から、比企起業塾におけるミニ起業家の育成やまちの担い手づくりといった、広い意味での「育成」に貢献できるよう、自分の事業の中で取り組んでいきたいと考えています。
そのことがまちづくりにもつながると思いますし、何よりそのことで自分もさらに成長できると思うからです。
そう考えると、相手にとっての「成長環境」をつくることは、同時に自分の「成長環境」をつくることにもなるのかもしれませんね。
自らの経験を顧みながら、今後の周囲の人との関わり方などについて考えさせられた一冊でした。
まとメモ
(以下、本書のまとメモです。「⇒」は私個人の考え)
はじめに
・今よりも変化が穏やかで、教える側が答えをもっていて、それを部下・後輩に伝えれば良かった時代の「導管型OJT」から「対話型OJT」へ
WHY なぜ、今「自律型人材」が求められるのか?
・これからの求められる人材は「自律型人材」(自ら考え行動できる人材)
≒ 問題発見型人材
・自律型人材の条件
①自分で、「自分がやること」を決められる
②「決めたこと」をやる
③チームとして動く
・自律型人材が増えること、副業・兼業者や起業希望者が増えること、リモートで仕事をすることは、組織において、外に向かう力(遠心力)が働いている状態
→ この職場・組織に属していれば、この上司・先輩、仲間と一緒にいれば自分が成長できると感じられる「成長環境」が、職場・組織へつなぎとめておく「求心力」となる
・人は「ヒト・コト・トキ」を通じて育つ
→ 経験軸(ストレッチ経験の量)」と「ピープル軸(職場メンバーの関わりの量)」に、育成目標に向かう「時間(トキ)」を加えた育成の全体像を描く
・育成目標とは、指導者側が一方的に示すものではなく、話型OJTでは、部下・後輩とともに考える大まかな「標」
・学び上手は、本を読み、周囲の人々の意見に耳を傾け、自分の経験から学び、どんどん自分を成長させていく。「成長する」ということは、「自分を変化させていく」ということ
Who 誰が教えるか ~OJTネットワークを築く~
・自分一人で、部下・後輩に仕事を教えようとしない
・「業務と育成の両立」への現実的な対応策が「一人で教えようとしない」=「周囲の協力を得る」ということ
→ 指導者が一人で関わるのではなく、複数の人たちが部下・後輩に関わる状況をつくる
・3つの支援
①精神支援…他者から与えられる精神的安息の支援
②業務支援…業務に密接に関係する支援
③内省支援…自身を振り返るきっかけとなる支援
→ 支援を受ける対象者の能力向上に寄与するのは、上司・先輩・同僚による「内省支援」、同僚が行う「業務支援」、上司が行う「精神支援」
・教えての役割は、新しい世界にいるさまざまな教え手たちとの接点をつくり、教わりやすい環境をつくっていくこと(=誘う)
What 何をやってもらうのか ~経験学習を提供する~
・人が学ぶきっかけ
「経験からの学びが7割、他者からの学びが2割、研修からの学びが1割」
→ 今では「経験が55%、他者が25%、研修が20%」
→ 経験からの学びが大きい
・「することがない」「手持無沙汰」という状態は、できるだけ避けたい。手持無沙汰状態に置かれるということは、組織社会化の適応という観点で言うと「役割の明確化」がなされていないということ
⇒ ある程度の「余白」が必要ではないか
余白とは「自分で考える」状況をつくること
How 対話型OJT ~「答えがわからない時代」の教え方~
・答えがわからない時代だからこそ、お互い言葉を尽くして納得解を得る「対話型OJT」が求められる
・「2割増し」のリアクションがあると、「相手が自分の話を聞いてくれているのか反応が見えづらい」という悩みが和らぐ
・「育成」とは「現状→目標」、つまり現状から目標に向かう手助け
・仕事における3つの領域
①一人でできること
②一人ではできないこと
③助けがあればできること
→ 手助けすべきは、「助けがあればできる」領域